NHKスペシャル深海プロジェクト取材班・坂元志歩『ドキュメント:深海の超巨大イカを追え!』

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

 2013年に放送されたダイオウイカのドキュメントの舞台裏。冗談抜きに、苦節十年の世界だったんだな。2006年あたりまでは、静止画像が撮影されたり、一匹丸ごと釣り上げられたりするが、その後、生きている姿を深海で撮影しようとすると、成果が出ない状況が続く。あの状況で、調査船アルシアと潜水艇3隻チャーターって、すごい博打だな。欧米側は、取れなくても番組が作れるにしても、日本側の責任者のストレスはすごかっただろうな。
 結局、あのタイミングでダイオウイカが多数現われた理由がわからないあたり、ダイオウイカの生態がわからないことだらけなんだなと。
 あと、結局縦縄での撮影がかなわなかったのが切ないな。浮力調整と撮影だけの機能にしぼって、あとは海上から電源を供給して、データを記録する方式にした場合、メカはどの程度の大きさになるんだろうか。


 以下、メモ:

 このとき見たダイオウイカの姿から、窪寺は、このイカの近祖先は、海の浅いところにいたのだと推測している。なぜなら、ダイオウイカの背側は暗い色、腹側は明るい色をしていたからだ。
 通常、浅いところで暮らす海の生きものたちは、ダイオウイカと同じように背側が暗い色、腹側が明るい色をしている。海の底から敵が見上げたときに、腹側が明るければ、背景の明るい海面の光に紛れ込むことができるからだ。また、背側が暗ければ、逆に浅いところから敵が下を覗き込んだとき、深い海の色に紛れることができる。
 ところが、深海に適応した生物は、体表の色にこのような違いはない。例えば、深海にいるヒロビレイカは、全身が一様に同じ黒紫色をしている。背側と腹側が異なるダイオウイカは、「浅い海から深海への適応途中だと考えられる」と窪寺は言う。p.117

 イカは皮膚の表面に色素胞(クロマトフォア)という細胞をもっている。この細胞は細い筋肉で四方から吊られるような形になっていて、筋肉を収縮・弛緩することによって色素細胞の大きさを変え、めまぐるしく色を変化させる。
「この色素胞層の下に色を拡散したり、反射させたりする虹細胞層があり、それは微小な反射小板と白色色素胞の2層構造になっているんですね。反射小板の角度を変化させることによって外からの光を反射し、金属質の輝きを出します。反射小板がよく発達しているのは、海の表層域で暮らすイカの特徴で、カモフラージュなどに利用しているんですよ」
 後日、窪寺は、その輝きを振り返りながら教えてくれた。p.251-2

 ダイオウイカの祖先は表層に生きていた種で、ダイオウイカもその特性の濃厚に維持していると。それが、あの金属質の輝きになった。

 スルメイカなど、高速で後ろ向きに動くツツイカ類を飼育することは、限られた施設でしか成功していない。日本人は食べ物としてのイカをこよなく愛しているのに、イカの養殖にはまだ成功していないのだ。イカ自体を飼育することはとても難しい。イカはああ見えて神経質な生きものなのだ。p.135

 へえ、イカって飼うのが難しいのか。

 なぜダイオウイカが、この日、潜水艇の前に現われたのか。衛星画像のデータから興味深いことが読み取れる。ちょうどそのとき、直径数百キロもの巨大な渦を巻く、不思議な海の流れが小笠原をゆっくりと通過していたのだ。そこに地形などの影響も重なり、トワイライトゾーンに鉛直方向に強い流れが起きていた可能性がある。そのダイナミックな海のメカニズムが、偶然、深海からダイオウイカを連れてきたのかもしれない。p.258

 つれてきたというか、それをダイオウイカも利用しているのではないだろうか。その渦って、どの程度の頻度で小笠原を訪れているのだろうな。