渡邊晶『大工道具の文明史:日本・中国・ヨーロッパの建築技術』

 大工道具を中心に、ユーラシア各地の建築技術の変遷を追っている。前半は、基本的な大工道具の発展をエジプト、ヨーロッパ、中国、日本の出土史料を中心に追跡。後半は、建築技術の地域的相違について。地域の植生が、大工道具や建築技術を規定したというのが興味深い。ヨーロッパではオークなどの硬木を主に利用したため、大工道具、特に鋸が押し使い主体になり、構法も隙間はあいても木釘で固めるスタイルが定着した。オークほどではないが、同様に落葉広葉樹を利用する中国でも、押し使いスタイルの鋸が定着する。一方、針葉樹地帯であったバルカン半島からトルコ、中東、北インド、中国南部、日本の帯状地帯では、比較的やわらかい素材を利用するため「ノコギリの引き使いベルト地帯」が形成されたという。また、台カンナを引いて使うのが日本だけという指摘も興味深いな。精度を重視して、微妙なコントロールができる台を直接握って、引く形式になったと指摘している。
 ここのトピックは興味深いが、頭の中での整理が追いついていないな。


 以下、メモ:

 このノミによる打割製材の痕跡を残す中世の部材(吉川八幡宮、一五世紀、岡山県)が発見された(図40)。部材には刃幅七分(約二一ミリ)のノミの刃痕があり、割裂作業を途中で中止したことにより、ノミが木の繊維を断ち切る方向に打ち込まれていたことが判明した。p.52

 へえ、よく残っていたものだ。打割製材の方が狂いが出ないという話だが。


 文献メモ:
太田邦夫「世界の木造構法の分布とその技術的背景」『住宅建築研究所報』1983
若山滋『世界の建築術』彰国社、1986
太田邦夫『東ヨーロッパの木造建築』相模書房、1988
内田祥哉編『在来構法の研究:木造の継手仕口について』住宅総合研究財団、1993
浅川滋男『住まいの民族建築学建築資料研究社、1994