石川貞夫『愛する海:船長50年の航海記』

愛する海――船長50年の航海記

愛する海――船長50年の航海記

 日本水産の母船などの船長を務め、その後、日本海洋事業でJAMSTEC海洋調査船の船長を務めた人の体験記。船員を目指した理由や南氷洋での体験も書かれているが、おおよそ大半が調査船船長時代のエピソード。しかし、南氷洋って、厳しいんだな、やっぱり。
 南氷洋の体験が興味深い。氷山の危険性。海図に載っていない島と思ったら、実は氷山だった。ペンギンの毛が錨鎖にいっぱいとか。ひっくり返って泥をかぶって、島みたいになっている氷山があるとか怖いな。オホーツク海の流氷も、普通の船には危険なんだな。
 本書の大半を占めるのが、JAMSTECの調査船時代。インド洋で最初の熱水噴出孔を見つけたときのエピソード。ディープ・トゥでしぼりこんで、無人調査機を送り込む。しかし、あせりで海況を見誤ったため、最終日にサンプルを失ってしまったエピソード。
 北海道南西沖地震の緊急調査、火災を起こした台湾漁船の乗員救助の話。台湾から来る救助船に船員を渡すなって、海上保安庁から念を押されるって、完全に密漁船じゃねーか。阪神大震災では、川崎重工で整備中だった支援母船「なつしま」に乗務するべく神戸に居たそうだ。この時、なつしまは盤木が倒れて、傾き、外板やソナードームを破損している。関東大震災で、天城が破損して廃棄されたというのは有名であるが、ドックに入渠中の船にとって、地震は大敵なんだな。一方で、盤木がクッションになって、中のゆれはそれほどでもなかったようで。あとは、造船所や港は、埋立地だけに、液状化で酷いことになるとか、被災地にいると外部の情報が入りにくいとか。
 H-2ロケット8号機のエンジン探しのエピソードも興味深い。海底で物を探すことの難しさとか、落ちた場所が比較的平坦な場所だった幸運とか。落し物を探す場合、ものすごくゆっくりと、じりじりと探していくしかないのだな。
 最後、半分程度は、ヨットで太平洋を往復しようとする老船乗りとの出会いと別れ。妻の遺骨を抱えて、自家用ヨットで太平洋を横断しようとした畑下氏。日本までの間に、数度にわたって遭遇。その後、漁船にぶつけられて破損・負傷で日本に滞在中も何度も出会い、最後、アメリカ行きの途中でなくなった畑下氏の遺体を運んできた巡視船とすれ違うまで。うーん、遠まわしの自殺といった感じもしなくはないな。