bylines.news.yahoo.co.jp
なんか筋の悪い記事だな。
ブッシュミートが感染症の原因の一つであること、商業的な狩猟が生態系に狩猟圧を掛けすぎているという問題は承認した上で、今回のエボラ流行とブッシュミートを結びつけるのには反対。つーか、ブッシュミートが原因での流行なら、散発的孤発的で多くても100人規模の広がりにしかならない。今回、西アフリカでここまで問題が深刻になったのは、当該地域の葬送儀礼がエボラ出血熱の流行に非常に適した形態だったこと。リベリアやシエラ・レオネが最近まで内戦をやっていた非常に基盤の弱い国家であり、公衆衛生・近代的医療サービスの供給能力が極端に劣っていたことに原因がある。周辺の諸国が、とりあえずはエボラ出血熱の流行を押さえ込めている。
そもそも、環境問題と他の食文化への嫌悪感をごっちゃにした行論そのものが有害だろう。欧米の環境団体が、海生哺乳類の狩猟を非難するときの論法そのものではないか。「目をそむけたくなるほどむごい」とか、なにをカマトトぶっているんだか。大量のウシを機械的に殺して、解体していく、近代的な食肉加工工場の方が、見た目清潔なだけ、よっぽどむごくないか。
日本でブッシュミート問題が知られていないから、「啓蒙」のためといった思いなのかもしれないが、公衆衛生と結びつけるのは近代に行われて生きた帝国主義と一つも変わっていない。そもそも、ブッシュミートを規制する場合、代替食糧をどうするのかという問題が付きまとう。ウシで食肉の供給を代替する場合、放牧地の拡大で熱帯雨林の破壊が促進される可能性がある。また、外貨の乏しいアフリカ諸国に、海外産の肉を買えというのも酷であろう。ブッシュミートが問題であり、長期的に環境との調和を図っていく必要がある問題であることは確か。しかし、この問題をエボラと結びつけたショックドクトリン的論法で論じること自体が、非倫理的ではないか。
医者なのに、なんか疫病に関してへんな論法を取っているのが気になる。確かに、狩猟と解体に伴う血液の接触が、エイズやエボラの感染の種になっているのは確かだけど、そもそもブッシュミートがなくなっても、人類が熱帯雨林の開発を続けて、環境を改変する限りは、エマージェンス・ウイルスとの遭遇は続くだろう。
さらに、感染症が拡大するには、そもそも人類社会の側にそれを拡散する条件が整わなければならない。エイズの拡散に関しても、植民地開発に伴う独身者のキンシャサへの集中、あるいはザイール川領域を中心とした戦争の続発、それに伴う人間の流動が要因となっている。西アフリカにおけるエボラの拡散も、基本的には、なくなった人物に多数の人が接触する葬送スタイルがその中心にあることは識者が指摘するとおり。そもそも、アフリカ中央部でのエボラ流行は、もっと小規模な段階で制圧されている。諸要因を捨象して、特定の要因をセンセーショナルに取り上げるのはどうかと。
だいたい、デング熱とか、西ナイルウイルスのような蚊が媒介する病気の方がよっぽど厄介で、エボラは感染者への攻撃力は高いが、感染能力はそこそこ以下なのだが。先進国で深刻な流行が起きる心配は、基本的にないと思っている。
最後の段落が本題で、出版企画の宣伝なのかと邪推してしまうが。
しかしまあ、ブッシュミートのための狩猟が、類人猿の存続の危機につながっているのは確かなんだよな。ゴリラの個体群の減少に関しては、これが主要因だろうし。しかも、あの地域、ルワンダ内戦以降、治安が悪化して、保護が追いつかないという。最近は、あまり聞かないが、キンシャサの政府に対抗する武装勢力が横行している土地だしな。
ちなみに、新興感染症を含むこの種の問題を知るのに一番いい本は、ローリー・ギャレットの『カミング・プレイグ:迫りくる病原体の恐怖』だと思う。続編の『崩壊の予兆』は半分くらい読んだところで挫折しているが…
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