石垣幸二『“世界唯一の深海水族館”館長が初めて明かす 深海生物捕った、育てた、判った!』

 沼津の深海水族館長の著作。この人、体当たり人生を歩んでるなあ。ヤオハンから、潜水士の求人に応募したら魚の販売に。そこから、独立して海洋生物の卸を行なう会社を設立。徐々に、水族館への供給へ業務をシフト。さらに、地元に水族館を作る計画に加わって、深海水族館の設立へ。深海魚の飼育のノウハウは、蓄積されていないので、試行錯誤している状況とのこと。「関心のない人」の興味をどう引き付けるか、か。
 前半は、深海魚の紹介。駿河湾は港からすぐに深海になっていて、深海魚を捕る漁師もいて、非常に深海魚の採取に適している。あるいは、深海魚の生態の話とか。生息密度が低くて、出会いの可能性が低いため、さまざまに工夫を凝らしている。あるいは、採食や身を守る方法の話など。カイロウドウケツの話が印象的だったな。中にドウケツエビが入り込む。最終的に雌雄のペアのみが残り、生長して出られなくなる。残りの一生をカイロウドウケツの中で過ごすという。
 あと、深海魚を捕獲し、いかに長く飼育環境で生きのびさせるかの話。いかにショックを与えずに、運ぶか。網から揚げて、プールに入れる方法の確立。高い水温や光にさらされるとダメージが大きいとか。しかし、チゴタラの浮き袋が膨らむから、注射器の針をお尻の穴に挿してガスを抜くって、すごいなあ。餌をどう食べさせるか。あるいは、輸送の時に、タカアシガニやウニはおがくずに入れたほうが生き残る確率が高いとか。やってみないとわからないことが多いと。
 おもしろいけど、もっと実体験や自分で観察したことを前面に出したほうがおもしろいのではないだろうか。生物学のバックボーンがないだけに、下手に概括的な話をするより、目先の話の方がおもしろいと思う。
 「深海をビジネス化した初めての人」か。実際、そっち方面の話がおもしろかった。