『廃村をゆく』

廃村をゆく (イカロス・ムック)

廃村をゆく (イカロス・ムック)

 イカロスMook、4冊目。今回は廃村の本。廃道と比べると敷居が低いためか、関わっている人間はこちらの方が多い。今回も地形図を見ながら読んだが、廃道は地図に残されているが、集落は名前が地図から消えていて探すのに苦労した。
 本書では、四つの類型に分けて紹介している。木炭需要の低下などに伴なって住民が移住した山村、炭鉱や鉱山に関連する集落、無人島化した島嶼、ダム建設で沈んだ谷あいの集落に分けられる。それぞれ、雰囲気が違っていて興味深いな。静かに朽ち果てていく山の廃村、巨大な遺構が目立つ鉱山集落、漁村だけではなく屋久島の林業集落も含む島嶼、そして突然外からの力で断ち切られた悲痛さが残るダムに沈んだ村。
 いろいろと印象的な集落が。京都の北の八丁とか、すごいな。つーか、本当に京都の北の山は深いな。その極めつけが、八丁って感じだな。あとは、葛城山中の廃村とか、北海道の駅前廃村とか。宮崎の寒川も印象的。しかし、こういう廃村に残された道具、集めて整理すれば、民俗学的な資料になりそうだよな。高度成長期に、不必要なものとして、放置されたモノ。
 鉱山は、硫黄の松尾鉱山石灰岩の小倉沢と倉沢、そして羽幌炭鉱。石灰岩に関しては、現在も稼動していて、省力化にともなって鉱山集落が廃村化した状況。石炭と硫黄に関しては、鉱山が閉山して、まるごと廃墟化。鉱山集落ってのは、鉱脈の状況で出来たり、消えたりするものだが。なんというか、栄枯盛衰を感じさせる。
 三番目の島嶼八丈小島の周囲のがけがすごいな。よくもまあ、こういうところに住む気になったものだ。とはいえ、島の上部は平坦なので、畑は作れるか。森に沈みつつある釜島、屋久島の林道集落、立派な教会が残る野崎島
 最後は、ダムで消滅した集落。徳山ダムって、わりと最近できたのだな。広大な範囲を水没させた。一方で、沈むのを免れた門入集落では、私有地に小屋を建てたり、生活の雰囲気が残っていると。地図を見たり、ネットを検索すると、現在は、先の『廃道をゆく』で出てきた「ホハレ峠」を経由して出入りが行なわれているようだ。旧車道よりも、歩きやすい道があるのかな。しかし、徳山ダムにかんしては、源流域をぜんぶ無人化する目論見とか、恐ろしいな。広大な領域から人間の生活の後を消し去るつもりなのか。あるいは、災害も遭って自治体としての村ごと消滅した福井県の旧西谷村。国道157号に沿って、岐阜側にも廃村があって、酷道と廃村の両方が体験できるルートらしい。中止が決まった川辺川ダムで更地になった頭地。今は、建物は全て撤去されて、さらに学校の用地として盛土が行なわれていて、完全に往時の姿を失っているんだな。奈良県上北山村の東の川代替地にあったオンライン化されなかった簡易郵便局。東の川の住民のほとんどが残らなかったのは経済的要因もあるんだろうけど、無言の意思も混じっているように思えるな。
 ラストは、廃村の全体状況や廃村探訪の作法、改めて利用されている廃村の話など。86ページからの炭鉱の紹介やその次の無人島の紹介を見て、改めて地図を見たんだけど、すごいな。北海道の美唄や夕張、長崎の高島炭鉱群や崎戸炭鉱。明らかに痕跡が残っていて。夕張って、地図で改めて見ると、市役所が山奥にあるんだな。崎戸なんかも、あちこちに炭鉱跡があって興味深い。
 無人島も地図で見て回ったが、五島列島や萩六島が興味深い。五島の福江島って、地形図を見た瞬間になんだこりゃとなる。中心部は険しい山地なのに、周囲はなだらかな丘陵。『活火山活断層 赤色立体地図でみる日本の凸凹』で、不自然になだらかな地形は火山であると考えるようになっていたので、検索をかけてみると、やはり五島列島は火山が分布しているようだ。険しいところは堆積岩で、その周囲に火山が分布。福江島といい、小値賀町の島々といい、火山で平坦なところにはびっしりと耕地があって、火山の恵みって大きいのだなと。同じく、萩六島も、火山で、平坦な島の上は耕地になっている、あるいはなっていた。小値賀町の島々の中で、野崎島無人島化したのは、その険しい地勢もあるのだろうな。ここだけは、火山じゃないそうだし。
福江火山群(1)  〜特異な単成火山群〜
福江火山群(5) 鬼岳火山群 〜福江島のシンボル。スコリア丘群と溶岩台地〜
福江火山群−阿武火山群のなかま


 末尾のブックリストも有用。
歴史ミステリー研究会編『封印された日本の村』
佐藤晃之輔『秋田・消えた村の記憶』
山村調査グループ編『村の記憶』 富山の調査記録。
菅聖子・大西暢夫『山里にダムがくる』
本木修次『無人島が呼んでいる』
『SHIMADASU(シマダス)』
一幡公平・武部将治『ランズエンド』 同人の写真集らしい。
HEYANEKO『廃村と過疎の光景』こちらも同人誌。同名のサイト「廃村と過疎の風景」 あり。