『タワーをゆく』

 上層部に展望台があり、料金なり何なりを払えば自由に出入りできる、塔状建造物をめぐった本。東京スカイツリー開業に合わせての企画なんだろうけど、それ関連の記事の内容が薄いのがいい感じ。しかし、これ読んで、俺、この種の展望施設に全然入ってないなと。小学校に上がる前に東京タワーに登って、最近では別府のグローバルタワーに登った程度か。どうも、入場料が500円超えると、興味をなくすような。京都タワーも、別府タワーも登ってないし。
 全体的な構成は、スカイツリーの特集記事、ニッポンのタワー十傑、変わったタワーのピックアップ記事、タワー関連の豆知識、一般人が入れない業務用のタワーを上った記事、耐震設計を理論化し多くの塔を建てた内藤多仲の事跡記事、全国のタワーのリストから成る。全国的にみると、多種多様な展望塔の類があって、無料のものも多いのだな。80年代後半から90年代にかけて多いのは、バブル期に計画されたとか、その後景気対策の公共事業によるのだろう。
 興味深いのは、内藤多仲の評伝。耐震構造の基本的な理論を構築。戦前から、村野藤吾と組んでさまざまな建物を建てたらしい。村野藤吾の名前は近代建築でよく目にするが、構造設計のほうの人名が出てくることは稀なので、驚く。また、NHKの送信塔の建設に関わり、30本近くを設計している。1932年の時点で、100メートルの鉄塔をおったてている。戦後は、東京タワーをはじめ、名古屋テレビ塔通天閣別府タワー博多ポートタワーさっぽろテレビ塔といった有名どころの設計に関わっている。晩年まで多産な人生。イカロスのこの種のムックシリーズのなかでも、単独の記事では出色のおもしろさだった。
 あとは、東京タワー以前、NHK日本テレビの送信塔建設競争。正力松太郎が550メートルの「正力タワー」を構想、すでに建設が始まっていたこと。これに対抗して、NHKも600メートルのテレビ塔建設を計画。しかし、計画の推進者である正力の死亡と不経済との批判から、東京タワーに統合される。場合によっては、1970年代に日本の600メートル級送信塔が並ぶ可能性もあったのか。あと、東京タワーが産経グループ主導だったとか、正力タワーの前段となる日本テレビ塔の話とか。
「業務タワーに潜入」として、田無タワーと羽田空港の新管制塔に入り込んでいる記事もおもしろい。田無タワーは、「ローリング☆ガールズ」でちょっと出てたな、田無タワーロボとして。羽田管制塔の地震対策の徹底振りも印象的。