『廃道本』

廃道本(ブルーガイド・ムック)

廃道本(ブルーガイド・ムック)

 タイトル通り、廃道を扱ったムック本。廃道に突入して、レポートを書ける人材はそれほど多くないのか、『廃道をゆく』と同じ執筆者。扱われている道路も、重なるのが多い。北海道から九州までの、廃道が紹介される。九州・中国・四国の扱いが薄い感じ。やはり、明治時代から戦前にかけて、大規模な道路建設の努力が、関東から関西にかけての本州に向けられたというのが大きいのだろうか。巻頭と巻末に多数の写真が収録されているのが特徴。なんというか、風情があるな。
 やはり、「道路県令」三島通庸に関しては、万世大路や大峠のレポートの他に評伝が収録されている。これをみると、弾圧者でもあったんだな。トップダウンで、県民から強引に経費や労力を徴収し、道路を建設している。一応、建設した道路は幹線として利用されたようだが、犠牲に伴なう効果はあったのかね。
 あと、もう一人の「道路県令」である山梨県令、藤村紫朗と彼が関与した黒川通り(国道411号旧道)や滋賀県で多数のトンネル建設を行なった無名の土木技術者村田鶴と彼が手がけたデザイン性の高いトンネル坑口の数々など。人に焦点を当てているのも特徴。特に後者は興味深い。
 京都醍醐寺の裏山に建設されていた林道の跡とかは、土地勘が多少はあるだけに印象的。しかし、やはり廃トンネルとか、廃橋に突っ込むあたり、真似できる気がしないな。森吉森林鉄道で、廃止後30年たった鉄橋を、内部をジャングルジムのようにして渡るって、なんかものすごいな。高所恐怖症の私にはとてもとても。しかも、数十年放置されていた鉄橋とか、いつ崩れるか。伊東市の廃ループ橋なんかも、橋げたが落ちているのに、ネットでは普通に上にあがっている人がたくさんいて、びっくりする。全体が崩落する可能性だってあるだろうに…
 あと、廃道探索のガイドとか。本書を見た後に、地形図の峠なんかを見ると、確かに車道は分かるようになるな。文献紹介も有用。
小野田滋『鉄道構造物探見』JTBパブリッシング、2003
西山芳一『なるほど知図帳:世界に誇る日本の建造物:現代日本を創ったビッグプロジェクト』昭文社、2007
浅井建爾『道と路がわかる事典』日本実業出版、2001
鈴木敏『道:古代エジプトから現代まで』技報堂出版、1998
北見俊夫『旅と交通の民俗:交通・交易伝承の研究1:民俗民芸双書』岩崎美術社、1975
文化庁歴史的建造物調査研究会編『建物の見方・しらべ方:近代土木遺産の保存と活用』ぎょうせい、1998
土木学会土木史研究委員会編『日本の近代土木遺産(改訂版):現存する重要な土木構造物2800選』土木学会、2006
北河大次郎他『図説日本の近代化遺産』河出書房新社、2007
堀淳一『忘れられた道:北の旧道・廃道を歩く 正・続・完』北海道新聞社、1992-2000
堀淳一『歴史廃墟を歩く旅と地図:水路・古道・産業遺産・廃線路』講談社プラスアルファ新書、2003
堀淳一『消えた街道・鉄道を歩く地図の旅』講談社プラスアルファ新書、2004
清野明『大人の探検ごっこ』アスキー新書、2007
高桑信一『古道巡礼』東京新聞出版局、2005
外山晴彦『野仏の見方』小学館、2003
野村和正『峠の道路史:道の今昔と峠のロマンを訪ねて』山海堂、1994
日本土木学会『日本土木史:大正〜昭和15年』1982
本邦道路隧道輯覧:土木図書館デジタルアーカイブス 内務省関連書籍
工学会・啓明会編 『明治工業史 土木篇』 工学会 昭和4年発行:土木学会付属土木図書館 戦前土木名著100書
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