谷甲州『コロンビア・ゼロ:新・航空宇宙軍史』

 先日、ネットで情報を得て、さっそく入手。
 いや、おもしろかった。あっという間に、読んでしまった。末尾の表題作「コロンビア・ゼロ」で、第二次外惑星動乱の開戦。そして、第一次外惑星動乱で決定的な打撃を受けることを避け、新生外惑星連合の中心となった土星系のタイタン。その戦争準備を、さまざまな視点から描いていく。大きな歴史の流れを、末端の個人の視点から描いていく手法は、そのまま残っている。
 既刊の航空宇宙軍史に関連するネタも多くちりばめられていて、その点でも楽しい。旧外惑星連合軍唯一の正規巡洋艦であったサラマンダーのサルベージと当時乗船していた造船官の登場。タイタンの航空戦で、淵田少佐の乗機と空中戦を交えた相手のパイロット。タナトス戦闘団のロッドの子孫など。ラザルスシステムや仮想人格ソクラテスも。意外なほど連続性が強いというか。
 それぞれの短編が、組み合わさって、ラストの「コロンビア・ゼロ」につながる構成が心憎い。最初の「ザナドゥ高地」が軍事用高性能エンジンの開発、「イシカリ平原」が長距離レーザー砲戦システム、「ジュピター・サーカス」が大気圏での挙動の研究、そして「ギルガメッシュ要塞」と「ガニメデ守備隊」がガニメデやカリストでクーデタを起こし、外惑星連合に引き込む無人戦闘機械。これらの要素が集まって、ラストの「コロンビア・ゼロ」の、タイタン軍仮装巡洋艦による軍港コロンビア・ゼロ襲撃に結実する。正体がよく分からない敵艦相手に、はったりを利かせた戦闘を挑む展開は、『火星鉄道一九』所収の「水星遊撃隊」を思わせる展開。高加速能力で、重力波センサを搭載し、圧倒的な長距離レーザー砲戦能力を持つ無敵の戦闘艦、かと思えば、戦闘の最後では思わぬ弱点をさらす。長距離レーザー砲の発射回数が限られている。この分では、推進器にもなんか弱点があるのだろうな。
 「サラゴッサ・マーケット」では、巡洋艦サラマンダーの艦長シュルツ大佐が、死後も戦い続けるべくサラマンダーのシステムに自分の人格を、仮想人格としてコピーしたことが示唆される。全体の構成からすると、「コロンビア・ゼロ」の仮装巡洋艦はシュルツ大佐の仮想人格によって操作される無人戦闘艦ということなのだろうか。あるいは、シュルツ大佐仮想人格から作られた制御システムか。


 結局、「航空宇宙軍史」を腐海の深層から召還して、読破中。大半が10年ぶりくらいかな。『火星鉄道一九』や『巡洋艦サラマンダー』は何年か前に読み返した記憶があるけど。『終わりなき索敵』は図書館から借りるしかないな。