長沼毅『辺境生物はすごい!:人生で大切なことは、すべて彼らから教わった』

 うーん、思った以上に、読むのに時間がかかった。おかげで他の本の読破計画も、ずるずると遅れる。微生物と人生訓を直接結びつけるのは、どうなんだろう。確かに、極限生物の生存戦略は、それはそれで生き方の一つのアイデアを教えてくれるようには思えるけど。
 確かに、バイオマスの量から考えると、生存のための資源が乏しい環境で、細く長く生きる辺境生物のほうが、生物界の「主流」で、ガンガン増えて、ガンガン進化していく生き方の方が傍流とは言えるのかも。多細胞生物でも、深海魚なんかは、成長が遅くて長生きだしな。だから、人間の尺度でガンガン取ると、あっという間に資源量激減。
 いろいろな辺境があるのだな。サイズの限界の話が興味深い。0.2マイクロメートル以下の生物量は、予想量の100万分の一以下だったと。このクラスになると、十分な遺伝子用の分子がもてなくて、環境変動に弱くなるか。あと、生命現象の本質が卵子にあるって話もおもしろい。
 一番最後の、精神活動も「客観的なパラメータ」で説明される時代が来るという見通しも興味深い。確かに、遺伝子と脳の活動の研究が進めば、かなり明らかにできる可能性はあると思う。しかし、精神活動も、周囲の環境との相互作用である以上、ある程度以上詳細に説明することはできないんじゃないかなあ。


 以下、メモ:

 ただし少し前まで、チューブワームのような生物は、海底火山や海底活断層の周辺だけの限定的な存在だと考えられていました。ところが最近になって、火山も活断層もないごくふつうの深海底にも、チューブワームの親戚がいることがわかっています。海底の泥にも硫化水素が含まれており、それを使えば微生物が「暗黒の光合成」を行うことができるのです。
 そんなふつうの海底にいるなら、なぜ海底火山を発見するまで見つからなかったのかと不思議に感じる人もいるでしょう。ごもっともな疑問です。
 でも、海底の泥というのは実に扱いにくく、生物学者にとってはいちばん苦手な代物。仮にチューブワームの仲間がそこにいても、ゴミと区別がつかずに捨ててしまったケースがあるかもしれません。p.31-2

 生物の死体が降り積もったものだろうしな。それと知っていて眺めない限り、生物を見つけきれないと。

 しかも最近は、卵子が分割を始めるのに必要なのは「刺激」であって、それを与えるのは必ずしも精子でなくてもかまわないことがわかりつつあります。東京農業大学などの研究グループは、マウスの卵子に刺激を与えて母胎に戻し、そこから親とまったく同じゲノムを持つメスの個体を作ることにも成功しました。「単為発生」もしくは「単為生殖」と呼ばれる現象です。p.165

 マジで!?
 つまり、人間に応用できるようになったら、本当に男は、人類の存続に必要不可欠なものではなくなるのか。

 たとえばチンパンジーとわれわれのゲノムを比較すると、おそらくはウイルスの仕業によって、ヒトにはごっそりと欠落している部分があります。そのせいで、ヒトはチンパンジーよりも免疫的に劣る面があるのですが、これは脳の成長にも関連していると考えられています。チンパンジーの脳は出生と同時にほぼ成長が止まりますが、ヒトの脳はそのゲノムが欠落していることによって、生まれた後も大きくなるし、神経細胞の数も増え続ける。だとすれば、ウイルスはまさに人類が人類であるためにもっとも重要な部分の進化を担ったことになるでしょう。p.189-190

 でも、人間がそういう精神的な価値を求めるように進化したのも、偶然の結果にすぎません。別に、誰かが崇高な目的意識を持ってそのような存在を作り上げたわけでもない。たまたま遺伝子のスイッチの加減で脳の成長が止まらなくなり、分節言語を話せる能力を持ち合わせたために、高度な精神活動を行なうようになったのです。p.204

 ウイルスが進化に果たす役割や脳の成長が止まらなくなったと言う話。生物としての人間は、脳が異様に肥大化した動物なんだよな。そういう生き物が、他の星で出現する可能性は限りなく低いんじゃなかろうか。生命は、宇宙に遍在していそうだけど。