リチャード・ウィッテル『無人暗殺機ドローンの誕生』

無人暗殺機 ドローンの誕生

無人暗殺機 ドローンの誕生

 うーむ、読書ノート書くのが、ここのところめんどくさい。これも、読み終わってから、ずいぶんたってしまった。
 無人軍用機の代表的機種であるRQ-1プレデターのアイデアが構想され、実際に作られ、それが空軍の戦略構想の中心部分に躍り出てくるまで。関係者へのインタビューや公文書、文献などから、911直後にいたる無人機の歴史を再構成している労作。読み物としておもしろい。ただ、周囲の無理解の中で、一部の先覚者の英雄的活躍によって成果をあげるというストーリーはわかりやすいが、どこまで信用できるのかね。あと、米軍関係のノンフィクションを読んでいると、諜報関係とか、先端技術関係では、唯我独尊な感じの軍人が、けっこう無茶な予算分捕りなんかをやっているけど、コンプライアンスとか、文民統制の観点からは、それってどうよって感覚が。機密の裏で、こいつら何やってるんだろうな的な。アメリカのノンフィクション読んでると、強烈で攻撃的な人間が、ぞろぞろ出てくる。


 イスラエル出身の航空技術者エイブ・カレム。そして、今や無人軍用機の大手、ジェネラル・アトミックス社を買い取った、ニールとリンデンのブルー兄弟を中心に、話が進められる、初期の開発の流れ。長時間飛行を目指したのが、カレムの貢献であったと。DARPAや統合無人機プログラムといった、ペンタゴンの機関から資金を得ているわけだから、無人機を実用化しようとする勢力は、主流ではないにしても、それなりにあったんだろうな。
 プレデターが脚光を浴びるのは、ユーゴスラビア内戦の時。比較的低空から、リアルタイムで動画を送ってくる機能が、部隊の移動や偽装した対空陣地の発見に有用であると判明。それまで、写真偵察の文化しかなく、動画を司令部まで届けるインフラが存在しなかったというのも印象的。動画を普通にやったり取ったりする時代になっているが、90年代半ばに動画をリアルタイムで送るには、いろいろと障害がおおかったろうな。送られてきた動画から画像を切り出していたエピソードをはじめ、静止画像を時間をかけて分析する文化が興味深い。
 海軍と空軍がプレデターの管轄権をめぐって争ったり、ユーゴスラビア内戦の過程を通じて、プレデターによる攻撃の誘導をどうするかなどの技術的課題が解決されていく。


 その後は、対テロ戦争プレデターが重宝されるようになって行く流れ。2000年、アフガンでのビンラディン撮影の成功。ヘルファイア搭載の試み。2001に、ビンラディンを暗殺するべく、ヘルファイアの搭載の精を出す人々が描かれるが、その時点でビンラディンの暗殺に成功しても、アメリカ国内での大規模テロの阻止はできなかったのではなかろうか。むしろ、国内でのテロを阻止する対策が必要とされていたと思うが。911テロが起きる以前の時点では、CIA内部で、自身の軍事化を危惧する人々が結構いることとか、無人機による「暗殺」の法的整合性を危惧する意見の強さが興味深い。今や、あちこちで「テロリスト」を標的として攻撃が行なわれていて、民間人への「誤爆」が多発している状況からみると、信じがたい態度だな。アメリカはドローンで、ターゲットではない人を殺していた(最新報告)なんかみると。実際、カメラに写っている人間が、本当に狙っている人間なのかを確認するのは果てしなく難しい。
 そして、911テロ後、おっとり刀で中央アジアに送り込まれ、タリバン掃討で活躍するようになる展開。重要目標の補足や初期における指揮系統の混乱。アルカイダ幹部のモハメド・アテフの殺害。ロバーツ尾根の戦いにおける地上部隊の支援能力。


 しかし、こうして見てくると、アメリカ国内から直接操縦できるというアイデアは、CIAによる暗殺作戦には適当だけど、一方で安い航空機で地上部隊に航空支援を与えるという方向性はスポイルしてしまったんじゃなかろうか。師団レベルに1セット配備したら、治安維持にも有用そうだけど。
 あと、低空を飛行し、カメラで直接標的を捉えて、攻撃する手法は、通常の航空攻撃に比べて、操縦者に直接人を殺しているという感覚を持たせやすいだろうな。攻撃ヘリパイロットの感覚に近いのかもしれないが、操縦者が置かれた環境は相当に違う。それが、無人機の操縦者を精神的に追い込む要因になっているのかも。
 本書後半では、イージス駆逐艦コールへの自爆テロについて、何度も話が出てくるが、ずっと「戦艦コール」と書かれていたのが気になった。「U.S.S.」を「戦艦」と訳したのだろうけど、せめて「軍艦」として欲しかったな。何もつけずに「コール」と書くとわかりにくいという配慮なんだろうけど、逆に神経に障った感じが。


 以下、メモ:

一九九一年の湾岸戦争に向けての準備期間中に、ビッグサファリは標的機四十機にGPS誘導装置と特殊な金属球面を取り付けて囮用無人機を作り、イラクのレーダーがこれらをF-15及びF-16戦闘機と誤認するようにした。開戦直後の数時間にイラク軍はアメリカの航空機四十機を撃墜したと発表したが、そのうちの三十七機がビッグサファリ製の囮だった。p.146

 おもしろいことやっているけど、これってどこまで効果があったのかね。

 四月三十日の次官級委員会の冒頭、クラークは、「プレデター投入の再開により、ビンラディンとその影響力を標的とする必要がある」と述べた。のちにクラークがその著書『爆弾証言――すべての敵に向かって』に書いているように、一人の男を標的にするというこの発言に国防副長官ポール・ウォルフォウィッツは困惑した。ウォルフォウィッツは、イラクの独裁者サダム・フセインによるテロの脅威をむしろ問題視していた。これに対して、クラークとCIAの副長官ジョン・マクローリンは、その形跡は見られないと答えた。p.255

 ネオコンが、「フセインのテロ」なんて素っ頓狂な妄想を抱くようになったのは何故なんだろうな。結局、アフガンをいい加減に放置して、泥沼二正面という最悪の事態を作り出したわけだし。

 この二つのシナリオを検討したのち、キャンベルは議題を別の問題に移した。民間人の巻き添え被害、特に女性や子どもが死亡したり負傷したりする巻き添え被害を回避するために、どのようなルールを採用するべきでしょうか。無人機攻撃によるビンラディン殺害の余波に、CIAやその他の政府機関はどう対処すべきでしょうか。「仮に、攻撃をおこなうと決めたとしましょう」と彼は言った。「次に何が起きるでしょうか。次の日、我々はどうしたらいいでしょうか」。
 その後、キャンベルと説明役の元陸軍将校は、CIA上層部のための机上演習をおこない、さらにずっと大きな意見の隔たりに直面した。ビンラディンアルカイダに関して、大統領からさまざまな秘密命令を受け取っていたにもかかわらず、テネット長官は、「CIAには、無人機からミサイルを発射して誰かを殺害する法的権限は与えられていない」という意見(この懸念は、他の多くの人間も共有していた)だった。無人攻撃にCIAが関与していたことが明るみに出た場合の影響を懸念する意見もあった。p.264-5

 この論争に決着が付いたとはとても言えないが、ベテランのCIA職員でさえ、「無人機でテロリストを殺害することによって、CIAは情報機関から準軍事組織へと変わってしまったのではないか」と懸念している。武装プレデターのような兵器を使用することに、ジョージ・テネット元CIA長官が9・11以前は消極的だったのも、これと同様の理由からだった。「引き金を引く」権限をすべてペンタゴンに返却したほうがいいという意見――テネットも当初、その権限はペンタゴンのものだと考えていた――も勢いを増してきている。何と言っても、9・11以降の非常事態はもう終わったのだから、と。この世界規模のテロリズムの時代にCIAが本来の姿に戻るかどうかはまた別の問題である。p.384

 無人機による暗殺作戦の「法的」な問題は、いまだに決着が付いていないよな。最終的に、国際法的に禁じられる可能性もなくはない。911以前の慎重姿勢が興味深い。あとは、CIAの準軍事組織化の問題とか。