ヘンリー・ペトロスキー『橋はなぜ落ちたのか:設計の失敗学』

橋はなぜ落ちたのか―設計の失敗学 (朝日選書 (686))

橋はなぜ落ちたのか―設計の失敗学 (朝日選書 (686))

 うーむ、とりあえず訳がひどい。英語の構文をそのまま日本語にしたら、意味が通じるわけがない。あと、特にアメリカ人の英語に顕著なんだけど、文章の単語が具体的に、どういうことを現すのか、イメージできないことが多いんだよな。
 基本的には、設計などに関わる工学の徒向けの教科書的な本。どんなに理論や解析ツールが発達しても、その道具を選ぶ時点や理論そのものの前提に、人間的な予断が入り込む。だからこそ、「古典的」な失敗事例を学ぶ価値があると指摘する。だからこそ、前半は、ウィトルウィウスガリレオといった、文字通り古典を引いて、技術の陥穽を指摘する。後半は、20世紀前半までに建設された橋と、それを設計建築した人々の、未知の事象に対するスタンスを紹介する。大規模な建築物は、複雑な挙動を示し、特に巨大化したときには思わぬ挙動を示すことが多い。経済性と安全性、外観など、さまざまな、相反する要求を折り合いつつ、技術の限界と向き合うことが求められる。
 10章では、技術の拡大のトレンドと、おおよそ大規模な橋梁の崩落事故が30年程度の間隔をおいて起きていることから、次は斜張橋の崩落事故が2000年ごろに起きるのではないかと指摘している。この予言は、結局、2007年のカントー橋の建設中の崩落で成就されたのだろうか。あるいは、ペトロスキーが予想できなかった別の要因、すなわち建築物の維持管理という「未知の問題」による事故、ミネアポリス高速道路崩落事故 - Wikipediaで成就されたと考えるべきだろうか。


 基本的には、古典的な失敗事例を紹介し、それと共通する新しい時代の失敗事例を紹介。パコニウスの失敗とローナンポイントのビル崩壊から、概念設計の時点での失敗を。規模の拡大が、思わぬ挙動を示すことを、ガリレオウィトルウィウスの指摘とケベック橋の事例から。ガリレオが紹介した仮置きしていた石柱に、支えを中心に追加した結果折れてしまった事例から、無造作な改設計が、大事故につながる可能性を。ガリレオによる片持ち梁の強度についての定式が、前提で間違っているにもかかわらず、長い間権威を持ち続けた事例から、信頼が置けるように思われる理論・仮説も、根本のところで当てにならない可能性を指摘する。どれも、ありそうな陥穽だな。
 後半は、19世紀後半以降の橋の成功と失敗の歴史から、教訓を得るスタイル。
 ディー橋の崩壊から、失敗の知識を蓄積し、予防しようとする動きが出てくる。しかし、一方で、設計者のスティーヴンソンは、過度に慎重になり、次の章のブリタニア橋では、頑丈で長期間もつが、経済性や快適性に劣るチューブ式の橋に固執してしまった。第八章では、つり橋がアメリカで主流になる契機を作ったジョン・ローブリングをモデルに、失敗を注意深く検証し、自分が作るものの危険を避けた、模範的設計者の姿を見る。そして、ローブリングの慎重さが失われ、規模の拡大や美観重視のデザインが行なわれ、タコマ橋の崩落へと帰結する。
 あちこちに陥穽が潜んでいて、それはツールがどんなに発展しても、そのツールの手前の段階で起きると。それを心に留めておく必要があると。


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