土屋健『生物ミステリーPRO2:オルドビス紀・シルル紀の生物』

 古生物を化石と復元イラストで紹介するシリーズ2冊目。
 カンブリア紀に続く時代を取り上げる。変わった形の生物が出現して脚光を浴びるカンブリア紀と比べると、地味な時代。そもそも、日本国内にそれなりの大きさの生物が多産する化石産地がないのが、古生代を縁遠く感じさせる要因かも。
 実際には科以下のレベルで多様性が激増したという点で注目に値する時代であること。この要因として、コケムシやカイメンなどの生物による立体的な「礁」の形成で、生態環境が複雑化したことが挙げられるという。オルドビス紀末には、大規模な絶滅が起きるが、シルル紀には、急速な回復が見られる。シルル紀は2400万年と比較的短い時代。特に、特徴が強いといった感じはないが、魚類の初期の発展が特筆されるところか。


 大まかには、著名化石産地と著名な分類群の多様化の過程の紹介がメイン。オルドビス紀では、ロシア、サンクトペテルスブルク地域を中心に、三葉虫の多様化。シンシナティ地域の動物群、スーム頁岩の化石。そして、魚類の黎明期が取り上げられる。
 シルル紀では、ウミサソリカブトガニ、サソリの類と甲冑魚とアゴを持った魚の出現。そして、化石産地としてはロチェスター近辺の化石産地とヘレフォードシャーの火山灰層中のノジュールから発見された深海の小型節足動物が紹介される。


 とりあえず、カンブリア紀の生物の子孫が、シルル紀あたりまで余喘を保っていたというのが驚き。あと、サンクトペテルスブルク近辺のオルドビス紀の地層から出てくる三葉虫化石のものすごい奇想天外さが。特徴のないわらじ形の三葉虫の化石は、買ったことがあるけど、ものすごい種類もあるんだな。あとは、ニューヨーク州の「ビーチャーの三葉虫床」の黄鉄鉱で置換され、脚まで保存された化石もおもしろい。
 化石産地では、シンシナティ周辺で19世紀から、地元のアマチュア研究家によって研究が進められてきた動物群が興味深い。コケムシ、腕足類、頭足類、ウミサソリ三葉虫、ウミユリに筆石などで構成されている。腕足類は、昔、スピリファーの化石を買ったことがあるな。以外に保存がいいのがうらやましい。
 スーム頁岩の項では、コノドントヤツメウナギのような生き物の一部であると紹介されているのが興味深い。90年代には、まだ謎の化石扱いだったような。


 シルル紀では、ウミサソリ類の拡散が大きく紹介される。90センチとか、70センチの節足動物は、ちょっとあいたくないような。あと、素人の印象だけど、なんか、ウミサソリ類って、あんまり能動的な捕食動物っぽくないような気がする。口の構造が、この手の生物の生態の決め手になるんだろうけど、そこは紹介されていないな。純粋に形態だけ見ると、あんまり水中で大型の生物を追っかけまわすのに向いているように見えない感じも。サソリのイメージに引っ張られているんじゃなかろうか。あとは、カブトガニ類の進化の過程がなにやら、混乱しているらしいとか、現生のサソリの仲間も海に住んでいたとか。
 ヘレフォードシャーの火山灰層のノジュールも興味深いな。「シルル紀ポンペイ」と紹介されているが、なるほどと。急速に火山灰に覆われ、軟組織が周囲の火山灰と反応、鋳型となって、細かいところまでが残された。しかし、小さい化石でクリーニングが難しいため、輪切りにして、断面を撮影、コンピュータ内で結合して3D構造を再現するという研究方法がとられている。生殖器まで残っているってのがすごいな。


 魚類に関しては、オルドビス紀からシルル紀にかけて、徐々に拡散が進む。また、両紀を通じて、獲物に噛み付く能力を持たない無顎類が主流を占めた。オルドビス紀には、翼甲類と異甲類が存在したが、大洋を渡る能力はなかった。シルル紀には、甲冑魚類はさらに発展するが、アゴを持たず、基本的には口に入ってくるプランクトンなどを食べていたようだ。一方で、淡水環境を中心に、アゴを持ち、発達した鰭を備える魚類も出現していた状況が紹介される。


 そしえて、この時期から、陸上へ植物の進出が始まる。

 ロバート・C・フレイが『U.S.GEOLOGICAL SURVEY PROFESSIONAL PAPER』で1995年にまとめたところによれば、最大で6mの体長をもったカメロケラスもいるという。この数値は、一般的なセダンタイプの乗用車よりも長い。資料によっては11mにもなるとされており、このサイズだとちょっとしたバス程度の長さになる。p.51

 オルドビス紀の殻を持った頭足類。11メートルは怖いなあ。


 文献メモ:
リチャード・ムーディ他『生命と地球の進化アトラス1』朝倉書店、2003
J.A.モイートマス他『古生代の魚類』恒星社厚生閣、1981
ヘインズ他『よみがえる恐竜・古生物ILLUSTRATED』ニュートンプレス、2010