高崎哲郎『砂漠に川ながる:東京大渇水を救った500日』

砂漠に川ながる―東京大渇水を救った500日

砂漠に川ながる―東京大渇水を救った500日

 東京オリンピックの直前、1960年代をクライマックスとする東京大渇水とそれに対応した利根川から取水した水路の建設を巡るノンフィクション。技術者、小野久彦と大井上宏を軸に、描かれる。
 オリンピックに間に合わせる必要があるということで、2年ほどで水路を建設しているが、なんというか無茶苦茶な話だよな。技術者たちの成功物語として描かれているが、「新設浄水場建設絶対反対貫徹期成同盟会」の人あたりから見たら、全然違う物語になるだろうな。まあ、結局は、地域の人たちは、都市化の中で土地を売却して、どっかに転出しているのだろうけど。まあ、それなりの規模の公共事業の割に、すんなりと話がまとまっているとも言えそうだが。事業を推進する方も、時間がなくて、かなり譲歩したんだろうな。
 あと、戦後の国造りの歪さも、示しているように思う。東京を中心とする特定地域への投資の集中。そして、配分を決める東京への権力の集中。結果として、人口急増に都市インフラの整備が追い付かず、水源が足りなくなる。戦前の国家体制なら、奥多摩湖の水資源で当面なんとなる状況だったんだろうな。公共事業に関して、「地方への無駄な投資」と批判されることが多いが、むしろ、東京を中心とする特定地域にものすごい投資が行われている不公平さは、やはり問題にされるべきだろうな。