瀬尾つかさ『高度に発達した魔法は神の奇蹟と区別がつかない』

 世界最先端の魔法学園の女子寮が、1000年の過去に飛ばされてしまう。その時代は、「魔族」と「人族」の大戦の時代。戦場近くに出現してしまったため、偵察に来た魔族の軍と不幸な行き違いから戦闘に。後に平和の礎を築いた人物、バーゼス・ログ・ラースを、殺害してしまう。歴史改変の懸念。さらに、怪しい動きをする一団。混乱しつつ、生き延び、元の時代に戻ろうと試みる。
 主人公のエルドは、たまたま、妹の看病にやってきていて、タイムスリップに巻き込まれる。「唯一の男手」かつ戦闘経験者として、帰還を模索する生徒たちの中核として活動することになる。


 何が起こったかは、カラー口絵に任せて、いきなり混乱状態からというホットスタート。確かに、スタートダッシュという点では、有効な手かな。混乱しつつ、生き延びようと懸命になるというのは、それだけで十分物語になるし。その上で、いろいろと今後のネタも仕込んである。
 現代の技術をファンタジー世界に持ち込んだらという良くある内政チート系の話を、ファンタジーと魔法文明にひねった切り口もなかなか。燃料が必要な現代文明より、時間的余裕は大きい感じだな。それでも、供給されるエネルギーには限りがあって、タイムリミットは半年と。
 さらには、邪神の復活だのなんだの。
 全体的には、辻褄が合ってしまいそうな雰囲気だけど。


 ただ、やはりキャラクターの造型なんかは、ここしばらくの瀬尾作品のパターン内だなと。スピード感は『横浜ダンジョン』3巻や『双剣使いの封呪結界』2巻を思わせるが。鈍感シスコン主人公は、「墜ちた竜の帝国」を思い起こさせるような。あと、伝統の腹黒キャラ、城塞都市ダンダールのお姫様スピカさんがどう活躍するか、楽しみ。