「うちのイチ押し:熟成職人のバナナ 松田邦彦青果(熊本市):渋みゼロ甘さのみ舌に」『朝日新聞』11/9/7

松田邦彦青果
 白梅天満宮のお向かいの店か。いっぺん、買ったろうと思いつつ、なかなか、機会がない。
 昔は、バナナは、ああやって熟成させていたんだよな。

 しっとりとした粘りと歯ごたえ。後味は驚くほどすっきりしていて、甘みだけが舌に残る。「渋みをなくし、バナナのうまみだけを引き出すのが技術」と胸を張るのは、バナナ熟成職人の松田邦彦さん(53)だ。
 熊本市細工町3丁目にある「松田邦彦青果」は、全国でも珍しくなったバナナ熟成加工専門店。1926年の創業と歴史は古い。青々とした若い状態で輸入したバナナを専用の室で6〜7日間寝かせ、鮮やかな黄色へと変身させていく。
 「低温でじっくり」がうまみのコツ。室に案内してもらうと、真っ暗でひんやりと冷たく、ぬれた木材などで湿度も整えられていた。外の気温や天候によって微調整が欠かせないが、その基準は松田さんが長年培ってきた勘が頼り。「目指す味は同じでも、そこまでの過程はいつも違う」そうだ。
 扱っているのは主にフィリピンや台湾産で、特別に高価で珍しい品種というわけではない。うまいバナナにとことんこだわり、「安くはないが、味がわかってくれる人だけが買ってくれればよか」と松田さん。「うまかったーって言われるのが一番うれしい」と話す。
 1キロ約300〜250円のグラム売りで、1本からでも購入可能。最近では、バナナを食べながら町を散策する観光客もいるとか。独自の保存法がある常連さんも多く、個別の相談にも乗ってくれるそうだ。
 絶対の自信を持っているバナナだが、「じいさんの味には、まだまだ」。子どもの頃大好きだった、甘くてとろける思い出の一品。松田さんはいまも、創業者である祖父の味を追求し続けている。         (塩入彩)