「日本農業の活路は?:生源寺教授(名古屋大大学院)熊本市で講演:ぶれない政策実現を」『熊日新聞』13/5/13

 昭和のころは、自給率が低下しつつあっても、畜産や園芸などの分野で生産が伸びていた。しかし、平成の食糧自給率低下は、農業生産そのもの縮小。輸入に推されて落ちているので、危険と。
 あとは、自給率よりも、絶対的な供給力が大事とか。


 農政のブレが心配と。菅政権以降、競争力重視・規模拡大の方向には疑問符をつけている。米なら10ヘクタール以上になると、コストが下がらなくなると。アメリカやオーストラリアのような乾燥地で、巨大な散水装置で耕作するようなまねは、絶対に無理だろうなあ。結局、中小規模の農家をどう維持するかという問題になると思う。


生源寺眞一 - Wikipedia

農業経済や農業政策の研究で第一人者とされる名古屋大大学院教授の生源寺眞一さん(61)が10日、熊本市で講演しました。テーマは「日本農業の活路を探る」。生源寺先生は、日本農業の半世紀を分かりやすく説明した上で、「農業をする若い人たちのためになり、広く国民に理解される、筋の通った政策が必要だ」と訴えました。今回の「知り隊」は、その講演内容の紹介。日本農業について考える上で大いに参考になると思います。(太路秀紀)


 講演では「食料自給率」をキーワードに、日本の「食と農」の50年を振り返りました。
 高度成長期以降の昭和の時代、自給率は下がり続けました。原因は、食生活が豊かになったこと。コメなどを多く食べる生活から、肉や牛乳、卵などを多く食べる生活に変わりました。この時代も畜産物や野菜、果樹を中心に、農業生産は伸びましたが、これらは計算上、カロリーベースの自給率には反映されにくいのです。
 平成に入ると食生活の変化は小さくなりました。この時代も自給率は下がりましたが、今度の原因は農業生産の縮小。健闘してきた畜産や野菜、果樹も、需要の伸び悩みや輸入物に押される形で伸びなくなりました。「平成の自給率低下は心配なのです」
 一方、生源寺先生は自給率について「これ以上あれば安心、という数値はない」とも言います。大切なのは自給率よりも食料の「絶対的な供給力」。農林水産省の試算では、日本の農地をフル稼働すれば、日本人1人1日当たり約2千キロカロリーの農産物を供給できます。ほぼ成人の1日の摂取カロリーです。でもこの数字、十分耕作されていない農地も含め、すべてを使うことが前提。「いざ農地をフル稼働しようとした時、耕作できる人がどれだけいるでしょうか」
 農業は、にわか仕込みの素人にできるものではありません。だから重要なのは、これから農業をしようという担い手の確保につながる政策を、追求すること。他方、農業を支える政策は多額の予算を必要とします。「負担する納税者が、十分納得できる政策でなければなりません」。
 生源寺先生は近年の農業政策に危機を感じています。一貫性のなさが目立つからです。
 2009年に誕生した民主党中心の政権は、それまでの自公政権の農業改革を「選別政策」と批判。鳩山内閣時代は、戸別所得補償制度など、小規模経営や兼業農家も農業が続けられると強調する政策を展開します。
 ところが続く菅内閣や野田内閣では、突然、環太平洋連携協定(TPP)問題が浮上。農業の競争力強化を掲げ、小規模経営や兼業農家は、中心的な農業者として否定される方向に動きます。生源寺先生は、日本の農業が、外国レベルほどの大規模化を目指すことは適当でない、と考えます。コメ作りなら一つの目安は10ヘクタール。それ以上規模を拡大しても、コスト低下につながらないというデータがあるからです。
 生源寺先生は「農業政策の基本方針を大きく変える必要がある場合もあるが、説明もなしに揺れ動いて先が見えないと、農業者にとっては深刻なリスクになる」と訴えます。
 だから、農政を安易に選挙の争点にするのは良いことではない、と感じています。昨年、再び政権交代が起きましたが「前政権との違いを強調して政策をコロコロ変えるより、ぶれない政策を実現するため、じっくり検討してほしい」と求めました。