吉田さらさ『石仏・石の神を旅する』

石仏・石の神を旅する (楽学ブックス)

石仏・石の神を旅する (楽学ブックス)

 全国の石仏・神像を取材して回った本。なんだけど、東京の著者と編集者が本を作っている限界も、明瞭に見えるな。関東・長野・京都奈良・大分に偏っている感が。同じ密度で全国を網羅するのは難しいのも確かだけど。つーか、関東発の本を見ていると、どうしても東京中心の偏りを感じるんだよな。
 京都から奈良にかけての石仏は、さすが古代からの首都があった場所らしく、歴史のありそうな作品が多い。一方、関東の石仏は、わりと時代が新しい感じだな。磨耗の具合を見ると、近代に入ってからの作例も多そう。楽しむという観点からは、作品の年代を気にするのは逆に、マイナスかもしれないが。そして、大分は、本当に石仏の本場だな。国東半島や大野川流域、臼杵など、大規模な石仏群がいくつも。
 独自の地域的石造物文化があるのがおもしろい。安曇野の双体道祖神。同じく長野の修那羅峠や霊諍山の石仏群は独自のデザイン感覚がおもしろい。兵庫県の北条の五百羅漢は古拙な感じが良い。因島の柏原伝六による新興宗教の石造も興味があるな。教祖は処刑されちゃったようだけど。鹿児島宮崎の田の神さぁもおもしろい。
 写真の撮り方や仏像の見分け方といった解説記事は便利。仏像については知識がないんだけど、ああやって見分けるのか。本当に屋外の石造物は、天候に影響されるよなあ。作品としての写真なら、曇り空でも味になるかもか。


 個人的には、141ページの高鍋大師の石造群が大好きだわ。合体変形しそうでかっこいい。古墳の盗掘を歎いて、ある人が昭和6年から彫り上げたものらしい。
高鍋町 観光 高鍋大師 高鍋町観光協会
 東京別視点ガイド 1人の男がひたすら50年間彫りつづけた!「高鍋大師」にはヘタウマな石像が750体あるよ


 あとは、寛永寺浄名院の八万四千体地蔵。近代に入ってからのものらしい。全国から、募集をかけたというか、地元に置いて、知らせると台帳に記載してもらうみたいなシステムだったらしい。残念ながら台帳は行方不明のようだが。