勝川俊雄『漁業という日本の問題』

漁業という日本の問題

漁業という日本の問題

 基本的には、ネットで主張していることそのままだな。日本の魚の消費量減少は乱獲と買い負けによる供給側の問題。資源保護のために個別割り当て(IQ制)の導入が必要であること。で、ノルウェーニュージーランドの事例を紹介。マグロ漁に関しては、漁業者の利害対立と、その片方との協調によって、実際に政策に生かせるようになってきた感じだな。
 しかし、1996年の国連海洋法条約批准によって、情報公開が義務化されるまで、獲った魚の年齢分布などのデータは公開されていなかった。水産庁に批判的な人物は、データを利用できなかったってのが、呆れるな。「民主主義国家」で、そんなの許されるはずないだろう。つーか、そういうのって、今は情報公開請求したら出てくるんじゃなかろうか。手間がかかって、学者としては、効率悪すぎだろうけど。そもそも、詳細なデータを情事公開する仕組みを整えるべき話だよなあ。
 物足りないところとしては、ドラスティックな改革を成し遂げたノルウェーニュージーランドが、資源維持のためのデータや個別の漁船に漁獲量を守らせる制度などの、情報インフラをどのように構築したのか。漁業社会と制度の相互作用といったところが、語られていないこと。現在、ノルウェーでは補助金がなくなっていることは紹介されるが、それ以前の段階ではかなり補助金でやめた人の支援なども行われた。それを、日本でやれば、どの程度コストがかかるか、シミュレーションできないと、制度導入の当否が判断できないのではなかろうか。まともな漁獲情報基盤が存在しない日本だと、その基盤の構築からして、それなりのコストがかかりそう。さらに、漁業から退出する企業や個人をどこがどう支援するか。単に、どこそこでは成功しているってだけでは、「出羽の守」にとどまってしまうのではなかろうか。そういう意味でも、社会学・人文学と共同する研究NGOの必要は大きいのかもな。
 最終的には、水産物の単価を上げるという、「ゲームのルール変更」は必要な改革であると思うが。


 IQに批判的な意見の記事など:
個別漁獲割当の隠された目的 ニュースの社会科学的な裏側
IQこそが一番守られにくい 本音で語る資源管理
資源回復計画の結果をどう評価するか 本音で語る資源管理
科学的な管理か自主管理か 漁業先進国の「正しい情報」で水産日本の復活を マサバの個別割当制度(IQ・ITQ)を成功させるために WEDGE Infinity(ウェッジ)
 そもそも、IQ以前にTACが機能していないのが問題というのはあるかもな。水産庁に報告されるデータの正確性が担保されていない。そもそも、報告義務がないという時点で、話にならないわけで。
 漁業者のコミュニティも考慮した制度設計が必要とは言えそうだが。
 反対論がそれほど説得力があるとは言えないように思うが。
 しかし、「隠された目的」とか、大仰に書いているけど、既にガンガン市場からの退出が続いている状況で、IQの影響はどの程度なのだろうか。むしろ、IQを換金できれば、退職金代わりになるのではなかろうか。
 そもそも、減っている資源は外洋の大型漁船によるものが多いわけで、そこではコミュニティ管理なんか、全然機能していないんだよな。大型漁船団には、個別割り当ては有効に機能しそうだけど。規制する対象もそれほど大きくないんだし。


 そもそも、現在の、資源管理がまともにおこなわれていない状況って、戦後一貫して行われてきた一次産業を犠牲にして、二次三次産業を振興する動きの延長にあるのではなかろうか。3000億円の補助金という「捨扶持」で、漁業者を黙らせて、徐々に安楽死させていく。資源管理のための投資そのものをやりたくないんじゃなかろうか。水産庁を攻め立てるだけではなくて、財務省にも圧力をかける必要があるかもな。


 以下、メモ:

 漁獲量の総量のみに着目すると、一九九〇年代に入って、いきなり漁業の衰退が始まったように見えますが、実はそうではありません。マイワシの豊漁の陰に隠されて誤解されることが多いのですが、マイワシ以外の漁獲量は一九七〇年代から減少しています。七〇年代から、すでに日本漁業は構造的に行き詰っていたのです。そして、三〇年以上経った今も、過剰漁獲という構造的な問題は、何も解決していません。p.10-11

 30年、資源管理に失敗し続けているというのが、本当にアレだよな。現状のままでは、どうしようもない。

 中国が急激に輸入量を増やしているのですが、輸入魚の単価を見ると日本と異なる価格帯の魚を消費していることがわかります。かつては養殖の餌にしかならなかった低価格の魚が、中国に食用として大量に輸出されているのです。p.23-4

 安い魚を大量に輸入していると。そうなると、養殖への影響は大きそうだな。

 筆者の所属する三重大学では、毎年、東シナ海トロール操業の実習を行っています。筆者は二〇〇八年の航海に参加しました。何時間も網を曳いても、獲れるのは商業価値のないカニばかり。東シナ海は砂漠のような海になっており、かつての豊饒の海の面影は、どこにもありません。乱獲によって、生態系が完全に変わってしまったので、今すぐ全面禁漁にしたとしても、もう元の状態に戻らないかもしれません。p.39-40

 以西底引網によって資源が壊滅した東シナ海。底引き網は、生態系へのインパクトが大きいというしな。中国船による乱獲は、要因の一部でしかないと。まあ、とどめを刺しているのは確かだけど。

 日本の漁獲統計の問題が顕在化したのはミナミマグロです。二〇〇五年一〇月に開催されたみなみまぐろ保存委員会(CCBST)年次会合で、オーストラリアは日本の市場調査で、TACを大幅に超えるミナミマグロが流通している可能性を指摘しました。これを受け、二〇〇五年の年末に水産庁が日本船の水揚量の調査を実施したところ、漁獲枠を超過した水揚げが明らかになりました。p.87-8

 下手すれば、倍近く獲っているというのが。アレ。全然資源管理ができていないということじゃないか。

 指導教官の言葉の意味は、やがて理解できました。漁業の現状を擁護するような研究にしか、漁獲データが使えなかったのです。日本の水揚げ情報は漁業組合が記録したものを、水産庁が管理しています。一般公開されるのは、県単位、魚種単位にまとめられた漁獲量のみでした。資源の持続性に関する議論をするには、漁獲量だけではなく、そのサイズ組成が重要になります。同じ重量の水揚げでも、未成魚か高齢魚かで、資源に与える影響がまったく異なるからです。そういった詳細なデータは、厳しく管理され、自由に使えませんでした。p.169

 なんというか、全然ダメじゃんとしか。

 筆者には、日本人がヨーロッパウナギを大切に食べていたとは思えません。ワシントン条約で規制される直前まで、ヨーロッパウナギニホンウナギの下位代替品として、スーパーでたたき売りされていました。シェアを争う商社が、持続性を無視してウナギをかき集めた結果、消費者は一時的に安く買えたのですが、その結果として、資源は枯渇してしまいました。持続性を無視して、他国の伝統的な食文化を破壊するような乱消費を、「魚食文化」と呼ぶことはできません。p.211-2

 いや、これは本当にそうなんだよな。ヨーロッパのウナギ食文化を破壊して、日本のウナギ食文化を言い立てるのは、ちょっとはばかれる。で、次は東南アジアの魚種を壊滅させようとしている。ビカーラ種の輸入は禁止すべきだと思う。

なお、二〇〇八年から、境港市は「むやみに捕っているとの誤解を招きたくない」(共同通信 二〇〇九年一〇月二〇日)として詳細なデータを公表しなくなったp.215

 ギルティ。
 やましいところがないならデータを公表すべき。自分たちだけでデータを抱え込んでいるだけで、資源管理に協力するつもりがないとしか思えないよなあ。
 データの抱え込みが、長年にわたって日本の資源管理に悪影響を与えてきたことを考えるとなあ。