平井明日菜・上垣喜寛『深海でサンドイッチ:「しんかい6500」支援母船「よこすか」の食卓』

深海でサンドイッチ 「しんかい6500」支援母船「よこすか」の食卓 (〈私の大学〉テキスト版)

深海でサンドイッチ 「しんかい6500」支援母船「よこすか」の食卓 (〈私の大学〉テキスト版)

 しんかい6500関連の本は、これである程度網羅したかな。
 本書は、しんかい6500の母船となるよこすか船上で、船の「司厨部」の人々が、どのように工夫しているのかという話。観測船で、それなりの人が乗り組むだけに、役割が大きそう。
 最初は、しんかい6500の潜航時に持たされるサンドイッチの話。長く置いておいてもしおしおにならないとか、忙しい艇内で片手で食べられるように工夫されているとか。細かい心遣いの現れなのだと言う。
 いったん航海に出ると食材の補給が不自由になる、スペースと機材が限られたキッチン、閉鎖空間で食事は重要な楽しみなのでちゃんと出さなくてはならない。さらに、乗船者をあきさせないように、毎日メインの食材を変えたり、栄養バランスを考えたりと、ハードルが上がっていく。リクエストは可能な限り受けつける。なかなか大変そうだ。
 インタビューに出てくる人が、60代近いベテランの司厨長と、20代の若手しかいないのが、定着率の低そうな感じで。まあ、ある程度仕事を覚えると、他の船に移ったり、店開いたりとか、そういうキャリアパスなんだろうけど。
 ミーティング的なお茶の時間とか、能力に合わせた仕事の割りふりとか、倉庫の食材を管理するストーキーの重要性とか。盛り付けの手際とか。
 何週間レベルで生鮮食品を持たせる必要があるために、保存の工夫が興味深い。冷凍焼けを回避するために、いろいろと動かしたり。生野菜を鮮度を保ったまま保存する工夫とか。新聞にくるんで、ビニール袋に入れる。ぬるま湯につけるなど。プロの技だな。
 飲用・食用などの水は水道水、風呂の水は造水器で作ったものも混ぜる、トイレは海水といった真水の使い分け。荒天時の揺れに備えて、備品は固定に気が使われている。荒天でも料理を行うが、あまりひどい場合は、「荒天食」というおにぎりとぬるめの味噌汁になるらしい。あるいは、食材の仕入れ。職員が現地に買いに行く場合もあり、納入業者「船食」に準備を依頼するという場合もあると。こだわりのメニューとか、打ち上げのバーベキューとかの話もいちいちおもしろい。


 「よこすか」では、花毛布・飾り毛布が行われているというのは驚きだった。日本郵船とか、商船三井とかの、外航客船だけの伝統かと思ったら、日本水産の漁船でも行われていたそうな。漁船時代には、個室がある士官だけだったかもしれないが。青函連絡船が起源だったのか。→飾り毛布 - Wikipedia


 船の運航を委託されている「日本海洋事業株式会社」は、「日本水産」の関連会社で、司厨長は、北洋漁業の工船で修行を始めた人が多い。200海里EEZの設定で、遠洋漁業が衰退、転職した人が多いそうな。むちゃくちゃブラックな環境だった話とか、豆腐やコンニャクは船内で作っていた話とか。こういう昔話、なかなか聞けないような気がする。

 野菜の保存方法について教わった中で、家庭でも実践しやすいのがサニーレタスやレタスなどの葉物の鮮度を甦らせる方法だ。それはとても簡単でシンプルなもので、四〇度くらいのぬるま湯に三〇秒ほど野菜を漬けるだけなのだが、こうすることで緑の色が長持ちし、シャキッとする。サニーレタスが「少し萎びてきたな?」というときはぜひ試してみてほしい。お湯につけてザルで水を切ったら、みるみる元気になる。ビニール袋に入れておけば、一週間くらいその状態を保つことができる。p.101

 メモ。