藤本潔他編著『微地形学:人と自然をつなぐ鍵』

微地形学: 人と自然を繋ぐ鍵

微地形学: 人と自然を繋ぐ鍵

 うん、わからん。
 『奇妙な菌類』の後から読み始めたから、都合、3週間くらいかかったのかな。途中で、ガンガン他の本に抜かれていく。今月に入って、マンガ以外読めていないし。大苦戦。地形学に関する知識というか、経験がなさすぎて、正直、ピンと来ない。測量して斜面の傾斜度を調べたり、ボーリングで堆積層を調べたりというのは、素人にはなかなかに敷居が高い。特に、微地形と植生の関係を追及した論文が並ぶ第一部が、こう頭がついていかない感じだった。
 第二部以降は、まだなじみがある話だけど、それでも、よくわからない。つーか、微地形ってかなり短期間で変動していて、発掘必須。となると、素人では手が出ない感じか。
 方法論にバラツキがあるのも気になるところ。


 最初の序章が、平野部の微地形研究から、丘陵地の研究への拡大。山地の微地形研究は、これから発展の必要があるという研究史の流れなのかな。


 第一部は、植生と微地形の関係。結論から言えば、微地形、傾斜や水とのかかわりが、植生に大きな影響を与えると。ナラ枯れと植生の遷移が、傾斜や斜面の方向に規制されていることを明らかにした論説1が興味深い。しかし、生えてる木を全部数えるのか…
 土壌の厚みが、斜面の上部ほど薄いとか、マングローブにおける微小な標高差が構成植物の差を生んでいるとか。屏風ヶ浦海食崖の景観分析。
 御霊櫃峠の階段状微地形の成因も興味深い。植物の根が、土砂をトラップするね。


 第二部は自然災害と微地形。
 地すべりが生み出す微地形を詳細に紹介し、危険度の判定の可能性を紹介する総説4「地すべり地形の危険度評価と微地形」、平野部における過去の微地形の変遷とそれに表現される自然災害について文献が山のように並んだ総説5「考古遺跡からみた平野・盆地の微地形と自然災害」、海岸地域の微地形の形成とどんな災害があるかを紹介した総説6「海岸平野の微地形と自然災害」が、学説史を紹介する。
 ケーススタディの論説がおもしろいな。2003年の福岡市の水害を題材に、川床や周辺の微地形が、川の溢水とどのように関係しているのか。あるいは、インド洋大津波で浸食されたタイ西部パカラン岬の砂嘴がどのように回復しているのか、毎年測量を行った研究。意外と早く、新しい砂嘴が出現するのだな。エルサルバドルの3-6世紀に起きた大噴火が地形や定住に与えた影響を研究したもの。
 トピックの「防災・減災まち歩き」も興味深い。


 第三部は、人間活動と微地形の関係。
 採集活動を中心に、人間がどのように微地形を利用してきたか。海外の事例が多く紹介されるのが興味深い。水とのつきあいといった感じか。あと、水田を常識とすると、急傾斜地は利用できないと思うが、畑にするなら結構な斜面でも耕地化できるのだな。
 ケーススタディがおもしろい。どちらも、人間による地形の改変みたいなテーマになってくるのかな。炭焼きがどのように微地形を利用してきたのか、あるいは微地形としての窯跡。岩手県久慈地方の砂鉄を豊富に含む砂岩の採掘に伴う地形改変も興味深い。鉄穴流しほどの地形改変を伴うわけではないが、様々な採掘の痕跡を残すと。


 以下、メモ:

 平野や盆地の一部は沖積層からなり、その分布域では先史・歴史時代、そして現在も地形変化を続けている。地形変化とは、例えば河川による土砂の堆積であり、それらは時折、洪水=「自然災害」として顕在化する。平野や盆地で生活するということは、土地の利便性を享受する代わりに自然災害との対峙を宿命づけられているのである。
 しかし、人口が集中した現在の平野や盆地では宿命を無視した秩序なき土地開発が行われている。そのアクターは行政・デベロッパー・住民であり、堤防・排水施設などのインフラストラクチャーに対する過度の期待を背景に、互いが被災のリスクや対応について「お任せ」の態度を決め込んでいるようにもみえる。p.183-4

 いや、実際、問題だよな。無秩序な開発の結果、さらにコストをかけて水害対策を行う破目になっているという。

 一方、1991年4月29日深夜から30日早朝にかけてバングラデシュ沿岸部を襲ったサイクロンはわずか数時間で公式には13万8千人近く、非公式には30万人ほどの犠牲者を出した。
 (中略)
 バングラデシュでは1970年11月のサイクロンに伴う高潮によって30万人あまりの人命が失われたほか、比較的最近でも2007年11月のサイクロン・シドルによって4千人あまりの犠牲者を出している。また、隣接するミャンマーでは2008年5月2日夜から3日にかけて襲来したサイクロンにより、エーヤワディー川デルタ地域などで13万8千人あまりの犠牲者を出す大きな被害が出ており、ベンガル湾奥の沿岸地域では度重なるサイクロン被害を受けている。p.217-8

 怖いな。死人の数の桁が…
 こういう平坦な場所では、鉄筋コンクリ製の避難塔でも造るしかないのかな。

 筆者は、これまでアジアやアフリカ地域における乾燥地域の暮らしをみる機会があったが、ソマリランドほど微地形が人の生存に影響しているところはなかった。それは、降雨があるならば一時的に水が溜められる窪地の存在である。これは、深さが3〜5m程度のもので多くが道路沿いに分布していることから、自然に生まれた地形ではないことがわかる。これは、道路建設の際に盛り土をするために土が必要となり、それを供給するために掘ったものであるらしい。しかし、この窪地のおかげでこの地域に暮らす牧畜民ソマリやオルマにとっては「命の水」になっている。とりわけ日中は、数多くのラクダやほかの家畜の水、および人の水の供給地となっている。p.283-4

 へえ。人工の微地形が、政治的に重要になると。


 関連リンク:
 地すべり関係をメインに。
屏風ヶ浦の地形あれこれ
J-SHIS 地震ハザードステーション 地すべり地形が表示される。
災害続報


 文献メモ:
大石道夫『目でみる山地防災のための微地形判読』鹿島出版会、1985
大矢雅彦編『地形分類の手法と展開』古今書院、1983
大八木規夫『地すべり地形の判読法:空中写真をどう読み解くか』近未来社、2007
松井健他『丘陵地の自然環境:その特性と保全古今書院、1990
千木良雅弘『崩壊の場所:大規模崩壊の場所予測』近未来社、2007
古谷尊彦『ランドスライド:地すべりの諸相』古今書院、1996
宮城豊彦他『マングローブ:なりたち・人びと・みらい』古今書院、2003
鈴木隆介『建設技術者のための地形図読図入門第一巻:読図の基礎』古今書院、1997
池谷和信『山菜採りの社会誌:資源利用とテリトリー』東北大学出版会、2003
大矢雅彦他編『地形分類図の読み方・作り方』古今書院、1998
海津正倫『沖積低地の古環境学古今書院、1994
安田喜憲・高橋学編『自然と人間の関係の地理学』古今書院、2016
小野忠熈『日本考古地理学』ニュー・サイエンス社、1980
小野忠熈『日本考古地理学研究』大明堂、1986
籠瀬良明『自然堤防の諸類型』古今書院、1990
金田章裕『微地形と中世村落』吉川弘文館、1993
日下雅義『平野の地形環境』古今書院、1973
日下雅義『歴史時代の地形環境』古今書院、1980
高木勇夫『条里地域の自然環境』古今書院、1985
高橋学『平野の環境考古学』古今書院、2003
外山秀一『遺跡の環境復元:微地形分析、花粉分析、プラント・パール分析とその応用』古今書院、2006
マイケル・R・ウォーターズ『ジオアーケオロジー:地学にもとづく考古学』朝倉書店、2012
井関弘太郎沖積平野東京大学出版会、1983
貝塚爽平他編『写真と図でみる地形学東京大学出版会、1985
渡辺ともみ『たたら製鉄の近代史』吉川弘文館、2006