- 作者: 加藤九祚
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/09/21
- メディア: 新書
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中央アジアの大河アムダリア上流部、現在のアフガニスタンとタジキスタン、ウズベキスタンの国境地域であるバクトリア。トルクメニスタンの南部マルギアナ。両地域の古代遺跡を紹介する本。今まで理解していなかったが、アムダリアの上流域は、アフガニスタンと旧ソ連諸国の国境になっているのか。ここまで地続きだと、アフガニスタン情勢に神経質になるわけだ。タリバンの北部地域への浸透が嫌われたわけもわかる。
バクトリア王国って、このあたりのことだったんだ。
そして、アレクサンドロスの遠征と帝国が、中央アジアに残した影響の大きさ。単純に、現地の人々に飲み込まれていったわけではなく、それなりの期間、ギリシアから人が移動してきていて、文化的にも影響を残している。黒海東岸から、カフカスの南、古代にはカスピ海に流れ込んでいたアムダリア支流を通じて、ここまで比較的楽に移動できると。
グレコ−バクトリア王国の崩壊後、ギリシア語の普及は止まったが、書かれたギリシア語はその後数世紀の間残存した。これはクシャン時代にもその後も残り、紀元七世紀まで続いた。バクトリアや中央アジアの山地では、ギリシア文字で書かれた著作が一一−一二世紀まで残っていたことが指摘されている。p.224
とあるから、文化的影響力は相当のものだったのだろうな。
しかし、不案内な地域なので、グーグルマップの衛星写真を見ながら読んでいたのだが、なんかすごい地域だな。まっ茶色の砂漠地帯の中、川や運河の周囲だけ緑がある。灌漑で強引に維持されている世界。で、カスピ海に注ぐはずの水を全部使ってしまったと。
序章で中央アジア地域の地勢を紹介。
第1章は前2000年ごろの「バクトリア-マルギアナ考古学複合」と称される、バクトリア地域とトルクメニスタン南部のマルグシュ地域に共通の文化が展開したという仮説の紹介。あと、マルグシュではトゴロク21号神殿とゴヌルの宮殿、バクトリアではジャルクタン、各遺跡の紹介。
第2章は、ヘレニズム期にバクトリアに建設されたギリシア殖民都市の遺跡アイハヌムの紹介。発掘された建物や、美術品、碑文など。前300年ごろに地域支配のために設置され、前145年に遊牧民サカの襲撃によって放棄された都市で、当時の名称は不明。その後、都市として利用し続けられなかったため、ギリシア時代の都市の姿をはっきりと残す貴重な例という。
第3章は、アイハヌムからそれほど離れていないタフティ・サンギン遺跡のオクス神殿の紹介。アイハヌムがほぼ純粋に古代ギリシア人によって運営された都市なのに対して、同地は現地の文化とギリシア文化が混淆した特性を示す。アケメネス朝ペルシア時代から、ヘレニズム期、さらにクシャン朝の時代に至る遺物が発掘されていると。
第4章は、ゾロアスター教の話。イラン系の人々による「原ゾロアスター教」と言うべき宗教文化が散在し、ツァラトゥストラ(ゾロアスター)はその宗教を改革し、明確な教義を設定したと。その後、古い時代の信仰が復帰している側面があると。
遺物にしろ、ゾロアスター教にしろ、不案内な話だけに、なるほどなるほどとしか言いようがない感じもあるが…