巽好幸『富士山噴火と阿蘇山大爆発』

富士山大噴火と阿蘇山大爆発 (幻冬舎新書)

富士山大噴火と阿蘇山大爆発 (幻冬舎新書)

 うーん、微妙にわかりにくい。「活動期」とか騒がなくても、日本列島は常に火山災害の危険があるってことなのかな。富士山と九州の巨大カルデラ噴火がメイン。日本列島の地上にある、山体噴火を起こす火山の中では、富士山は図抜けて活発な火山であること。一方で、伊豆・小笠原火山帯の火山島では、同規模の火山はいくらでもある。そして、カルデラ噴火は、山体噴火の噴火と比べ物にならない規模と災禍であると。
 危機意識を持たせたいのだろうけど、ちょっと盛りすぎなんじゃなかろうか。最終章の、巨大カルデラ噴火に備えるということで、阿蘇山で噴火マグニチュード8.3の巨大噴火が起きた際の、最悪の想定が描かれているけど、九州北部は火砕流で消滅。関東まで厚さ20センチの火山灰に覆われるって、手の施しようがないだろう。災害想定とそれに対する対策を積みあげていくなら、噴火マグニチュード7クラスから積みあげていくべきなんじゃなかろうか。あと、おおまかにでも、カルデラ火山のマグマ溜まりの規模や充填状況が明らかにならないと、対策のとりようもないだろう。そういう意味で、熊本地震阿蘇のマグマ溜まりの解明にどの程度有用だったかが気になる。


 第1章は、地震や火山活動の「活動期」の話。過去の噴火や地震に関しては、記録の密度で見かけの「活動期」になっているのではないかという指摘。巨大地震と火山噴火に関しては、経験的にはありうるが、そのメカニズムははっきりしないこと。こと、東日本大震災に関していえば、結局、対応する火山噴火は起こってないと考えられると。地殻にかかる力の変化で、東日本の火山は、火山性微動の増加などの動きを示したが、噴火には至らなかった。富士山の火山性微動の動きから、一時は噴火を覚悟したというから、影響はするんだろうけど。地震があろうがなかろうが、火山の危険はいつでもあると。


 第2章は、富士山。先小御岳小御岳、古富士山、新富士山の四重構造で、山体の容積が550立方キロ。日本列島の地上にある火山では、ダントツにでかい。これは、伊豆半島が日本列島に食い込んでいる場所という特性が影響しているらしいが、よくわからないという。
 富士山の場合、噴火もだが、山体崩壊による被害が危険と。富士山は繰り返し山体崩壊を起こしていて、2900年前の御殿場岩屑なだれや8000年前の馬伏川岩屑なだれなどの事例がある。被災範囲には人口密集地もあるので、一度起これば犠牲者が多数に及ぶ危険があると。


 第3章以降は、巨大カルデラ噴火について。
 直近の巨大カルデラ噴火が、7400年前の鬼界カルデラの噴火。つい最近感がつよいな。巨大カルデラ噴火の地続きさが。この時には、南九州の縄文文化が壊滅しているのだから、恐ろしい。阿蘇4だと、熊本、佐賀、福岡、大分全域と、長崎、宮崎の大半が火砕流に飲み込まれるという。
 このような巨大噴火は、通常の山体噴火とはマグマ溜まりの構造が違い、流紋岩質マグマが大量に供給され、巨大なマグマ溜まりが形成される。これは、堅く、変形しにくい地殻で、形成される。そのような地殻が、九州や北海道に集中していると。で、巨大マグマ溜まりが、浮力で上昇。一気に大地を割って、噴出すると。この手の巨大カルデラ噴火って、どのくらいの時間持続するものなのだろうな。なんか、数日で全部焼き尽くすとイメージすればいいのかな。
 死亡者数と発生確率を掛け合わせた「危険値」からすると、交通事故や南海トラフ地震と同じくらいの高さになり、対策は必要と。しかしまあ、このクラスの災害となると、実際のところ、何ができるやら。一月くらいの前兆くらいは期待できるのかね。それなら、必死に風上に逃げる程度の対策は取れるが…


 ツイッター上で有名な青プリンこと、早川由紀夫の評価が高い。火山灰の噴出量の迅速評価方法の考案、それに基づくデータベースの作成。噴火マグニチュードという、定量的に噴火を評価する方法の提案など。紹介されている事跡だけで考えると、精力的な研究者とは言えるよなあ。それが、変な方向に漏れ出すと、ああなると…

 マグニチュードが9以上の自身は、数百キロメートルを超える範囲で大断層が動く。そのエネルギーはほぼ日本の年間総発電量に匹敵するほどだ。p.28

 なんか、そういう表現をされると、エネルギーが大きいのか、小さいのか分からなくなるなw
 意外とたいしたことないんじゃね見たいな感覚になってしまう。つーか、エネルギーを取り出すことができるようになれば、化石燃料を燃やす必要がなくなるんじゃねとか。
 110ページで、鬼界カルデラ噴火のエネルギー(1600エクサジュール)が、全世界の年間エネルギー消費量の四倍。それが一度にまき散らされるのだから、そりゃ大災害。だけど、マグマの熱を直接くみ出せるようになったら、なんか解決しそうとか思わなくも…