佐々木春隆『華中作戦:最前線下級指揮官の見た泥沼の中国戦線』

華中作戦―最前線下級指揮官の見た泥沼の中国戦線 (光人社NF文庫)

華中作戦―最前線下級指揮官の見た泥沼の中国戦線 (光人社NF文庫)

 前作、『長沙作戦』の続き。昭和17年から昭和19年6月ごろまで。長江中流域での治安戦や大陸打通作戦の前半、衡陽占領までの時期を扱う。治安戦では中隊長として、大陸打通作戦では歩兵砲中隊長兼連隊の作戦主任として関わっている。
 しかしまあ、この時期、ガダルカナルニューギニアソロモン諸島では、補給戦を切られて、将兵が飢えていた中、略奪する食料があるだけマシって感じだな。あと、戦闘での戦死者を避けられるだけ、というか。


 前作に続いて、ここでも火力の重要性が印象的。機関銃で撃たれると、前進できない。中国軍が迫撃砲を投入してくると、かなりの損害が出ると。
 あと、武漢西方では、堡塁を構築した中国共産党の部隊が陣取っていて、それを攻略するのに苦戦しているのが印象深い。こういう陣地って、強いんだな。75ミリ砲弾なら、ある程度ぶっ壊せそうに思うのだが、そうでもないのか。戦車がいれば、近づいて、銃眼を狙えるんだろうけど。
 夜戦の難しさ。視界が悪い状況では、同士討ちの危険も大きいし、そもそも、手さぐりで戦うだけに、逃げる敵の殲滅すら難しいと。


 あとは、3000人規模の歩兵連隊を統率できる人間の希少さ。本書では二人の連隊長が登場するが、どちらも、あまり好意的な評価ではない。特に、一人目の今井連隊長は、最終的に職務放棄状態だったわけだし。二番目の小柴大佐は、指揮官をぶん殴って、人望を失っている。上官に殴られまくるのが旧日本軍と思っていたけど、士官同士ではそうでもないのだな。
 大陸打通作戦開始後は、第40師団は、主力の西側を援護する作戦を行っているが、師団全体や全体の戦況に関する情報がないと、有効に動けないんだな。他の部隊の動きや、今後の作戦計画を元に準備しなければならないだけに、全体情報は重要。
 つーか、連隊規模の部隊に、師団全体がどう動いているか情報を流さないって、師団司令部の気が利かないとしか言いようがないよなあ。


 陸軍の教育が硬直しているというのも、印象深い。歩兵学校などでは、対ソ戦を意識した教育が、対米開戦後も行われていた。日中戦争も、結構長くなっているのに、そういう状況だったのだな。
 巻末付録を見ると、連隊本部が200人と結構な人数。どういう役割分担だったのか。