川上和人『そもそも島に進化あり』

そもそも島に進化あり (生物ミステリー)

そもそも島に進化あり (生物ミステリー)

 前作『鳥類学者、無謀にも恐竜を語る』とともに、ネットで評判が良かったので、機会があったらと思っていたもの。軽妙な語り口で、島の生態学の勘所と問題点を紹介してくれる本。学問的な理解が、あくまで仮説であり、時には一部要素が誇張されることもあると明言されているのが良い。


 全体の構成は、以下の通り。

  • 序 そもそも島は
  • 第1章 島が世界に現れる
  • 第2章 島に生物が参上する
  • 第3章 島で生物が進化を始める
  • 第4章 島から生物が絶滅する
  • 第5章 島が大団円を迎える



 火山活動や海水面の上下で出現する島。海で隔てられたているため、生物の拡散にはバリアーになる。特に、一度も大陸と接触を持ったことのない「海洋島」では、溶岩の土地に一から生物が進出する必要があり、海がフィルターとなって独特の生物相が発達する。
 最初にやってくるのはやはり、鳥。長距離の渡りをする鳥が休息場所にしたり、食物資源を海洋に求め、陸には安全なねぐら・産卵場所しか求めない海鳥が最初の住人になる。海鳥は、特に、海洋の栄養源を持ち込み、島の土壌を形成する上で重要。海流に流されて拡散するタイプの植物、鳥に食べられたり、付着して運ばれてくる植物。風で運ばれてくる。流木や鳥類をヒッチハイクしてやってくる小型の生物などなど。
 一方で、植物食の大型哺乳類、捕食能力の高い哺乳類は、長距離の海洋を越えてこられない。哺乳類って、出力は高いけど、やはり燃費が悪いのだな。で、長期の漂流生活に耐えられない。それで、海洋島では、強力な捕食者を欠いた生態系が構築される。


 いったん定着すると、島の空きニッチに進出し、多様化のシークエンスに入る。島という限られた面積、哺乳類などの強力な捕食者を欠いた生態系では、むしろ同種間での資源をめぐる競争が激しくなる。結果、鳥が飛ぶのをやめたり、植物が毒やトゲを造らなくなるなど、捕食者対策のコストを削減。むしろ、子供にコストをかける、遺伝的多様性の創出などへのコストが強化される。


 このように独自化した生態系に、人間という侵略者がやってくる。人間とそれが引き連れてくる、家畜や密航者、微生物は、島の生態系に甚大な影響を及ぼす。
 人間は、島の平地という一等地を占拠し、農耕などによって都合のよいように改変。古くから人類が住み着いた島は、もう大量絶滅が起こってしまった後の世界であると。小笠原諸島ガラパゴス諸島に比較的多様で、独自性の高い生態系が残っているのは、人類の利用開始が比較的最近だったからこそであると。
 また、人間が意図的・非意図的に持ち込んだ生物は、捕食生物に対する防御を捨ててきた島の生物にとって災厄でしかない。
 島の植物は、大陸の近縁種と比べると、トゲや毒素などの防御手段がなくなっていることが多い。結果、植物食の哺乳類にとってはご馳走で、ガンガン食べられることになる。特に、ヤギが放たれた島では、ヤギが植物を食べつくし、土壌が露出、洗い流され、景観まで変わってしまう。かといって、それらの動物を排除すると、今度は外来の植物が繁茂して、在来の植物を駆逐してしまう。
 捕食動物の脅威も大きい。ネズミやネコがスーパープレデターとなって、島の動物を食べつくしてしまうこともある。かといって、この侵略的外来種を排除すると、中間の外来種が繁茂して状況を悪化させる可能性がある。駆除をどうするかも難しい。
 さらには、病原体の影響やある種の消滅が連鎖的に、依存する生物を絶滅させる事態。
 これに対し、駆除などの手段で、既存の生物群の保全を試みることになるが、外来種の駆除が目的化してはいけない。外来種を完全に排除することはおよそ不可能。島の生態系という「情報源」を将来にわたって残していくことが目標であると。


 以下、メモ:

 現代まで生き残った生物は、その戦いの勝者たちなのだ。認めたくはないが、ナメクジさえも勝者の一角といえよう。もちろん、彼らの進化は称賛に値するが、ビジュアル的に苦手である。生物学者だからって、すべての生物をリスペクトしていると思ったら、大きなまちがいである。p.27

 だれでも、何かしら苦手な生き物があるよなあ。え、こんなの触れるのって人が、ある生物はダメだったり。で、川上さんはナメクジが苦手とw

 競争者も捕食者も少ないことが島の生物相の特徴であり、これが島としての独特の進化を促してきた。しかし、これは競争者や捕食者に対する抵抗性の低さの証明でもある。その脆弱さは伊達ではない。数十万年、数百万年かけて油断を研ぎすましてきた生物たちだ。彼らにとって、絶滅することなど造作もないのだ。p.195

 いや、そうなんだけど、言い方がw

 カリフォルニアでは、マングローブに覆われた小さな島々を徹底的に燻蒸し、そこに住む昆虫などの節足動物を滅亡の淵に追いやる実験が行われた。昆虫を擬人化したら、さぞや悲劇的な叙事詩を書くことができるだろう。そして、その後にどのような生物が島に定着し、生物相が構築されるかを克明に記録し、島への生物の移入とそこで生じる絶滅の様相を明らかにしたのである。p.243

 とんでもない実験やるなあ…
 今では、こういう実験は無理だと思うど、いつの頃の実験なのだろうか。そして、日本語で読める文献はあるのだろうか。