佐山二郎『日本陸軍の火砲:要塞砲』

 NF文庫の火砲本、二冊目。今回は、東京湾などの海岸要塞に設置されたカノン砲がメイン。明治時代初めから第二次世界大戦まで、新旧いろいろな砲が出てくるのがおもしろい。19世紀中盤辺りの大砲は、趣がある。日本軍は、沿岸要塞に営々と投資を続けてきたと。あと、早い時代のカノン砲では、イタリアやフランスの影響が強いのも興味深い。


 しかしまあ、この本を本当に楽しむには、どこに要塞や砲台が設置されて、どのように築城が構想されてきたかの知識が必要だな。兵器の発達によって、砲台の配置は適宜、再検討され、廃止された砲台もあるとか。このあたりは、どういう文献を読めばいいのやら。


 高初速で砲弾をぶっ飛ばす砲だけに、本書で紹介されるカノン砲は、あまり実戦で使われていない感が。特に、海軍の主砲を転換した砲は、大正時代から昭和二十年までの間に、それこそ数えるほどしか発砲していないという。しかも、兵器としての有効性は機雷や航空機の方がよっぽど高そうだし。そう考えると、諸行無常感が。そういえば、陸軍に移管された主砲に、36センチ砲がないのは印象的だったな。現役戦艦の主砲は、流石に渡せなかったと。ワシントン条約で解体される主力艦の30センチ以下の砲と、八八艦隊の未成艦の40センチ砲が余剰になって、陸軍の要塞に回されたと。
 あとは、20世紀には入ると、15センチカノン砲がメインになること。野戦での使用も視野に入れたもので、実際にあちこちに送られている。しかし、八九式15センチ加農以外は、地面を掘って砲床を埋めなければならないのだから大変そう。20トンの砲を動かすわけだしなあ。一番軽い、開脚式砲架の八九式でも、10トンか。
 清やロシアからの鹵獲砲が多いのも印象的。