渡辺尚志『武士に「もの言う」百姓たち:裁判でよむ江戸時代』

武士に「もの言う」百姓たち―裁判でよむ江戸時代

武士に「もの言う」百姓たち―裁判でよむ江戸時代

 松代藩真田家の領内、南長池村で起こった、名主選考をめぐる紛争に端を発し、不正糾弾裁判まで至った事件から、江戸時代の司法や紛争解決をめぐる文化の特徴を明らかにする。字が大きくて、思った以上にサクサクと読みおわった。
 しかし、どちらも司法技術の限りをつくして戦っているな。小前百姓の一部を動かして上申書出させるとか、今でもやりそうなやり方。あと、最終的には、争点は旧村役人の不正会計問題に収斂しているが、それがうやむやになっているのがすごい話だな。そもそも、村役人の仕事でかかる費用は、役職者が立て替えて払って、後から清算という手法がこういう揉め事の源泉なんだろうけど。
 最初から、藩側の対応が、「古役人」寄りの姿勢だった。それが、住職の息子が「貸していない」という証言から、形勢が一気に逆転する流れ。有利なほうについて、証言が二転三転する村人たち。金を取って、裁判を有利な方向に工作する人物の存在。
 判決を言い渡す武家側にとって、武家の無謬性を明らかにし、権威を高めることが重要であったこと。そのため、判決の前に、関係者間で和解して、済ませる方が好まれた。また、判決に際しても、藩の体面や権威の維持が重要だったこと。判決に反抗的な態度を示す関係者がいると、逆に、権威の失墜につながりかねないため、司法関係者は入念に準備するとか、裁判のあり方が興味深い。