米川正子『世界最悪の紛争「コンゴ」:平和以外に何でもある国』

世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)

世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)

 これも、読むのにずいぶんかかってしまった。なかなかに、エグい。全ての関係者が腐っているというのが。つーか、敵味方がころころ変わりすぎて、応仁の乱なみに分かりにくい。
 ベルギー植民地時代から、100年以上かけて醸成されてきたアレさなんだよなあ。ザイール=コンゴが、独立以来、独裁者の下で腐って、自力での統治能力向上を怠って来たのは確かなんだけど。だいたいの震源ルワンダという。70年代の難民と民族間の差別問題。90年代の虐殺首謀者が逃げ込んだ先で、さらに、現ルワンダ政権が不安定要因を外部に押し出していると。コンゴ政府に食い込んで、ほとんど乗っ取っている現状もすごい。


 コンゴ東部から、ルワンダブルンジウガンダタンザニアあたりは、難民などの人間の移動がシームレスに行われていて、そもそも、国籍を確定しにくい。あとは、ツチ系の人々に対する差別が結構広がっている様子とか。いろいろと解決が難しそうな問題が。


 天然資源、特にレアメタルの採掘と売却の利権の争奪が、紛争を長引かせていると。武装勢力が採掘した資源を、ルワンダ南アフリカ企業を通じて売却する。その利権に沿って、国際社会が動いている。国際組織や先進国もその磁場から逃れられていないと。
  つーか、コンゴ政府のガバナンスのダメさ加減がすごいな。軍は腐敗しきって、規律もない。そもそも、司法が機能していないとか。アメリカあたりが、コンゴ政府を見捨てて、ルワンダと組むのはわかるような気がする。現ルワンダ政権が諸悪の根源くさいけど、じゃあ、見捨てて、コンゴ政府と組んでも意味なさそうだし。
 とはいえ、ルワンダのやっていることは、完全な侵略行為なんだよなあ。確かにルワンダに負い目があるとはいえ、ダブルスタンダードだよなあ。


 そして、地元の人材育成の必要性や長期的な平和構築政策の必要性。そう考えると、教育支援を長期的にやっていくというのは、重要なことかもな。


 以下、メモ:

 武装勢力はまたそれぞれの目的を有している。マイマイは女性を強姦することにより、戦闘に強くなると信じている。その一方、東部で最強の反政府勢力で、ツチ系住民によって構成される人民防衛国民会議(CNDP)、そしてFDLRは、特定の民族あるいは政党に帰属コミュニティーを傷つける武器として使用している。p.72

 エグい。つい最近も、女性の傷で加害者の武装勢力が分かるというネット記事が出ていたな。

 確かに、一般のコンゴ人の料理法を観察していると、サツマイモや食用バナナを小さく切らずに、そのまま鍋に入れて1時間近く煮たり、葉っぱがベトベトになるまで30分以上も煮ているのがわかる。栄養がほとんど消えてしまった状態だ。しかもふたを使わず、石を3つ置いた上に鍋を置き、薪からの煙がもくもくとたつ中で、周辺の人はゴホゴホとせきをしながら料理をする。当然、健康によくない。人道支援機関や保健省による、栄養や公衆衛生に関する啓蒙活動は行われているが、料理方法に関する基礎教育はほとんどされていない。蓋をする、野菜を小さく切る、豆は一晩水につけておく、といった工夫をするだけで料理時間が短縮される。そうすると、栄養も十分維持できるだけでなく、使用する薪の量も減らすことができる、薪を探しにいく時間も減り、外でのリスクも減るなど、いいことばかりだ。避難民にそう説明すると、「そんなこと知らなかった。もっとそういう知識を教えて」とせかされた。p.74-5

 教育がないということは、こういう基本的なところに影響してくるのだな。難民生活で、親子間での知識の伝承に失敗したということなのだろうか。

 2001年から2003年にかけて国連安保理に提出された「コンゴ民主共和国の天然資源やその他の資源の不法採取についての専門委員会」の報告によれば、ルワンダウガンダブルンジジンバブエの政府軍やコンゴ人のエリートが、コルタンなどの資源を不正に採掘しているという。多国籍企業による資源の搾取と現場の労働環境に対して国際社会は対応しているが、事態は改善されていない。コンゴの資源が国内外の武装グループや多国籍企業を惹き付け、資源によって得られた利益が紛争の資金源となり、これがコンゴにおける紛争を長期化させている。p.147

 なんか、もうね。しかも、この報告書は、十分に活用されていないと。

 一般的に知られている虐殺の構造は、フツ過激派(加害者)対ツチとフツ穏健派(被害者)である。しかし、虐殺直後の調査に基づく、UNHCRの報告書(Gersony Report)によると、その後政権をとったRPFも1994年4月から8月まで虐殺に関与し、約2万〜4万人の市民が犠牲になっている、ルワンダ国際戦犯法廷(ICTR)はこの報告書を世界中で探したが、見つからなかったという。歴史学者のプルニエルは「せっかくこれから新政権を樹立しようとしているツチにとってマイナスになるため」、同報告書が国連から「発禁処分」(embargo)され、処理されてしまったと書いている。p.152

 ルワンダの現政権の手も白くないと。しかしまあ、規模からすれば、それまでの虐殺の5パーセント程度ともいえるが。つーか、報告書が完全にもみ消されてしまったということが恐ろしい。

 2002年から2003年にかけて開催された「コンゴ国民対話」にしても、武装勢力の停戦、外国武装勢力の撤退、軍事統合、新政府のための選挙などについて合意されたが、まるで国内問題の解決なしには、紛争が解決できないようなイメージをもたらす結果となった。「『コンゴ』国民対話」は、紛争の地域性ではなく、コンゴ国内だけに目を向けるための落とし穴であった。そのため紛争の「(周辺国からの)侵攻・侵略」の面より、「反乱」(モブツやカビラ大統領を倒すという革命運動」の性格が目立ってしまったのである。これは天然資源の搾取問題を隠すために、意図的に作られたからくりだった。p.193-4

 国際問題としてのコンゴ紛争。