犬亥『蒼戟の疾走者:落ちこぼれ騎士の逆転戦略』

 楽しく読んだ。
 19世紀くらいのイメージの世界。遺跡から発掘された素材を利用した飛行艇ZEPのレースを舞台にした物語。イメージとしては、F1と競馬とレッドブル・エアレースを足して、三で割った感じの競技なのかね。それぞれのメカに、かなりの性能差があるのが、特色か。つーか、多くの「目」で状況を監視できるとか、他の機体に介入できるとか、チート能力が多すぎるような。
 とりあえず、レース物だけに、失敗しなければ、スリリングな物語を作ることができる。サクサクと楽しく読んだ。後半、主人公と、ライバルのルーファスの駆け引きなんかは、白熱する。


 没落下級貴族出身で、借金しつつ「騎士」になったが、ルーファスとのレースに敗れて、今や地方レースで八百長まがいをやって稼ぐリーロイ・ダーヴィッツ。大国マイルズの騎士で、エリート街道を歩いてきたが、本当にギリギリのレースを仕掛けてきたリーロイを忘れられないルーファス・ウェイン・ライト。二人の騎士が、ウィンドミル・ステークスを舞台に激突する。
 それに、賭けを操作して儲けようとするマフィアや騎士志望ながら才能がないと否定されてきたルーファスの妹クリスの意地といった要素が絡む。


 スピード感と清涼感がある作品だが、なんか、ずいぶん編集の指示をうけて、改稿したもののようで、著者の素の文章とはだいぶ違うらしい。元がどうだったのかも気になるな。「アングラ臭」があるという、素の文体はどんなものか。