山根一眞『理化学研究所:100年目の巨大研究機関』

 STAP細胞や新元素発見など、良いニュースも悪いニュースも出る、巨大研究機関がどんな研究をしているのかを取材した本。しかしまあ、スパコン「京」とか、リングサイクロトロンとか、建設費も維持費もかかりそうな設備がたくさんあるなあというのが正直な印象。国家予算を潤沢に投じられている感じだな。


 話の組立からすると、小さな物を見るというのが、理研の本領という感じなのかね。サイクロトロンに、放射光に、テラヘルツ光。世界で最も充実したサイクロトロン設備。大量の原子核を加速するのに適したサイクロトロンで数を稼いだ結果が、「ニホニウム」発見の成果と。スプリングエイトも、名前は昔からよく聞いていたが、どういう代物なのか、本書でやっと分かった。円形の加速器で陽子や電子を高速回転させると、進行方向に溢れる電磁波が「放射光」。この光を利用して細かいものを見る施設なわけね。これらの施設で、遺伝子改変を行ったり、光合成の仕組みを解明したり、生物などでもいろいろな成果が出ていると。最先端の研究では、光合成の触媒の仕組みなんかが明らかになっていると。また、スプリングエイトのミクロの観察は、様々な産業分野で活躍しているとか。テラヘルツ光に関しては、よく分からないけど、細かく見えると…


 第6章は、スパコンの話。「2位ではダメですか」で有名になった「京」。あれは、1位じゃないとダメと、その場でいえなかった担当者がダメなんだと思うが。突出した計算能力は、産業も含めて、広く利用されている。引っ張りだこで、各地にスパコンを増設する構想がある。高性能のスパコンは、それを利用する技術を開発するためにも必要と。


 後半はバイオ・医療がメインに。
 細胞や植物、実験動物など、研究の材料となる様々な生き物類を供給するバイオリソースセンター。リコール率が少なく、信頼を得ているとか、東日本大震災の時の危機。神戸ポートアイランドの医療系部門。自費診療でかなりの額が支出されている歯や毛髪の再生を足がかりに、実用化を目指すと。歯の再生は、実際にできるとなると大きいなあ。横浜キャンパスの巨大MRIことMNR棟では、RNAの挙動を研究中と。脳科学総合研究センターは、読んで字のごとくの脳関係。様々な学術分野を統合した研究を目指すと。光学迷彩の理論研究が行われていたり。
 最後は、創発物性科学研究センターの話。常温で固形の水とか、量子コンピューターとか、固体電子を用いた光熱発電とか、もうSFみたいな感じだな。アクアプラスチックは、模型方面でなんか使えないかな。
 本当に広い範囲で研究が行われているのだなというのが、よく分かる一冊だった。

 香取さんのチームは、その光格子時計を使い「時空のゆがみ」すら測ることを可能にした。重力の大きさによって時間の進み方が異なるというアインシュタイン相対性理論は理論だけの世界かと思っていたが、その観測に成功していたとは! 標高のたかいところと低いところに光格子時計を置き、時計の進み方の差の違いを調べたのだ。高い山は重力が小さく、低い山は重力が大きい。もっとも観測した2ヵ所の高低差はわずか数センチメートルだったが、そんなごくごくわずかな高低差(=重力差)でも、時計の進み方が違う「時空のゆがみ」を確認できたというのは、ほとんどSFの世界だ。
   (中略)
緑川 地下に直径10メートルくらいの鉄球が埋まっていても「時空のゆがみ」で検出できるので、資源探査にも役立ちます。香取さんと話しているのは、これを富士山の周囲に置いてはどうかというアイデアです。マグマが上昇してきたことがわかるので、噴火予知が可能になるはずです。こういう時計が実験室でできつつありますが、今後は外に持ち出せて簡単に使えるコンパクトサイズにすることが課題です。p.125-6

 なんかすごい。資源探査や地学研究には、本当に役立ちそうだな。海上で、潜水艦探知に使えたりして…