中川毅『人類と気候の10万年史:過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』

 福島県水月湖の年縞研究を主導した著者による、過去10万年以上の気候変動と、そこから予測される未来の状況について。なかなか暗い未来の見通しが語られる。
 複雑な要素が絡むシステムにおいて、変化の予測は難しいこと。モデルによるシミュレーションでは、比較的安定した局面と激しく変動する局面が不定期に交替する。このような変化は、極地のアイスコアの分析などから導き出させる、過去10万年の気候変動と酷似している。不安定期移行のタイミングと不安定期の変動と言う二重の予測不可能性。
 不安定期になれば、今までとは比べ物にならない変動が、場合によっては何年も続く。ここ1万年ほどの長期間の気候安定期は、予測を元にひたすら生産性を上げることで、文明を築くことができた。しかし、2年も3年も不作が続くような状況になれば、先進国ですら対応できず、食糧の市場は大混乱が予想される。
 このような、不安定な気候の時代は、いつ始まるか分からない。そして、人間による温室効果ガスの排出が、その引き金を引きかねない。ゾッとする未来だな。そうなったら、穀物を、エネルギーを投入した屋内工場で生産するしかなさそうだけど。


 人間が、「なぜ農業を始めなかったのか」という問いも興味深い。1万2000年以上前の、不安定期には、むしろ、多様な資源を利用する狩猟採集の方が生存可能性が高かった。一つの食糧源に依存する農業社会は、気候変動への脆弱性が大きかったか。


 水月湖の年縞に残る花粉をカウントして、ここ数万年の気候変動を、植生の変化から見る研究。そして、多国籍プロジェクトによる水月湖の年縞を、C14年代測定法の補正用ものさしとする研究の進行なども、興味深い。