- 作者: 福井康雄
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2016/09/09
- メディア: 単行本
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分かったようで、あんまり分かってない。紹介されている画像を見ても、説明されないとさっぱり分からないのが、可視光による画像との違い。電波天文学難しい。まあ、ある程度分かるように、かなり噛み砕いて説明してくれている本。
全体の構成は、序章のアルマの紹介に始まって、第1章が銀河と宇宙の始まりについて、第2章が恒星の形成、第3章が原始惑星系円盤、第4章が物質の進化となっている。アルマがいろいろな分野で成果を期待されているし、実際に出しつつあること。また、高分解能や受信能力で、今まで見えなかったものが見えるようになってきていることがわかる。
序章は、アルマの概説とか、機器の説明とか。日本の予算処置が遅れたのは、大学の独立法人化のすったもんだのせいだったのか。
第1章は、銀河と宇宙の初期に何があったのかの探求。なるべく遠くにある銀河を探したい、さまざまな銀河を探したい。そこで、可視光ではダストで遮られる銀河を観測できるアルマの出番と。アルマによる物質構成、特に窒素と炭素の比率から、銀河の「進化」の度合いが明らかになる。
あと、超巨大ブラックホールと銀河の共進化。ブラックホールに分子が落ち込もうとすると、遠心力によるアウトフローが発生し、星の生成を押しとどめるといった相互作用があるとか、いろいろ。
第2章は、恒星の形成の話。太陽の8倍以上の質量を持つ「巨大星」がメインだが、普通の大きさの星の形成との違いも重要と。このような巨大星は、数は少ないけど、重元素の生成など、大きな役割を果たすと。
ガスの塊を、高解像度で再現するというのは、まさにアルマの独壇場。
まずは普通の大きさの星がどうやってできるか。水素分子ガスが自らの重力で収縮して、核融合を開始するモデルが標準だが、実際にそれらしい候補の星を観測すると、複雑な形状で、標準モデルが単純化しすぎたものだったことが明らかになった。
一方、巨大星は、星間分子雲の塊が衝突する場で生成されること。衝突による圧縮が、自分の光による光圧によるガスの散逸に対抗できると。
これらが、初期宇宙の理解に繋がるということらしい。
第3章は、惑星形成の場となる原始惑星系円盤について。
『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』でも、大きく取り上げられた画像は、やはりかなり衝撃的だったのだな。その後の観測で、さまざまな複雑な形状をした円盤が発見されていること。意外と非対称系が多い。あるいは、磁力線で物質が恒星に送り込まれる過程らしきもの。今後、観測が進めば、星の形成のデータ蓄積が進められると。
最後は、原始惑星系円盤や分子雲の中での、さまざまな分子の形成について。アルマの分解能で細かく観測できるようになってくると。
分子雲の密度によって、生成される分子が違う。あるいは、原始惑星系円盤でも、大型有機分子を豊富に含むホットコリノ天体と炭素鎖分子に富む天体といった、物質組成のバリエーションが見られること。あるいは、生物の化学反応に適した放射光エネルギーの範囲は意外に狭く、生命活動が可能な星は、少ないかもしれないと。まあ、このあたりについては、初期生命は、むしろ太陽の光が届かないところで進化した可能性があるから、なんともいえないところがあるが。想像以上にバリエーションに富んでいると。
2002年、米国側とヨーロッパ側はアルマ建設の合意に至り、正式に建設が始まりました。しかし、日本側は同時に正式参加できませんでした。その背景の一つは、当時進んでいた大学等の研究教育機関の独立法人化でした。2004年に発足する計画で進行していた独立法人化が完了した時点で初めて、2004年にアルマの日本側参加も正式に決定されたのです。このために、後発の日本がどの部分を担当するかが問題になりました。p.10-11
大学の独立法人化が参加の遅れの要因と。本当に改革病は害悪だな。このあたり、山根本では、ブラックボックス状態だったけど。まあ、他にもいろいろあったんだろうな。