高橋慶史『ラスト・オブ・カンプフグルッペ 6』

ラスト・オブ・カンプフグルッペVI

ラスト・オブ・カンプフグルッペVI

 最近は、割とハイペースに出版されているな。
 第一部がここのところの定番のSS外国人義勇部隊の話。アラブ、インド、ポーランド領内居住ウクライナ人、エストニア人部隊の戦歴。エストニア人を除いて、ロシア人やコサックのような目にあっていないだけ、気が楽だなあ。
 イラク・イラン方面侵攻時の政治工作向けに組織されたアラブ人義勇兵部隊。結局、シリア方面もカフカス方面も行きつけず、ユーゴスラビア方面で機械化部隊として運用。カフカスでの機動防御戦が花か。あとは、アフリカ戦最末期の補助大隊とか、降下猟兵部隊。この降下猟兵部隊は、最終的にベルリンまで戦い抜いている。
 あるいは、チャンドラ・ボースの配下に、捕虜などからリクルートされたインド人部隊。結局、インド方面まで影響を及ぼすことができなくて、ビスケー湾で沿岸防御に。ノルマンディー後の、撤退戦。南仏から進撃してくる米軍やレジスタンス部隊を退けて、ドイツ本国に撤収。最後は、スイス国境をウロウロしたり。
 第3章はガリツィア地方のウクライナ義勇兵部隊、SS第14武装擲弾兵師団「ガリツィア第一」の話。士官・下士官の数が足りていないあたり、戦闘力は限られたものだったろうな。ブロドゥイ包囲陣での大打撃。その後のスロヴァキアでの戦い。つーか、ドイツの人種主義って、最後の最後まで、アレだなあ。反共ポーランド義勇軍で、1939年当時の亡命ポーランド人と同じ扱いをされるべきと主張して、ソ連に引き渡されることなく、英連邦やアメリカに散っていった。終わりにで紹介される、独ソどちらにも与しないウクライナ蜂起軍(UPA)の話が印象的。
 ソ連民族浄化も、本当にエグすぎる。悪の帝国か。
 第一部最後は、エストニア人部隊。祖国防衛のために立ち上がった人々。こちらも、「森の兄弟」なる抵抗組織が戦後、ソ連と戦い続けたらしい。ドイツも、割と気を使っていたというのが、興味深い。SS大隊ナルヴァの力戦、エストニア国内での戦い、最後はチェコで壊滅。SSホルスト・ヴェッセルと行動を共にしていたために、かなりひどい目にあっているが、一部はチェコ人にどう逃げるか教えてもらって、アメリカ側に投降している。このあたり、通じ合うものがあったのだろうな。


 第二部は、マイナー部隊の話。今回はノルウェー特集といった感じかな。前半は、ノルウェー駐屯の第14空軍地上師団と何度か編成された戦略予備の機甲部隊について。
 結局、戦わずにすんだ第14空軍地上師団は、希に見る幸運部隊だな。他の空軍地上師団の大半が、緒戦で粉砕されているのを考えると。そして、ノルウェーでは、空軍地上師団がほとんど最強師団だった最貧ぶりが。
 そして、ノルウェー特集二番目は、ノルウェー駐屯部隊の戦略予備として、何度か編成された戦車部隊。最初に編成された第25戦車師団は、結局、引き抜かれて東部戦線に投入。突破された戦線の穴埋めで、バラバラに投入されて、あっという間に消耗。
 残された旧式戦車やフランス製鹵獲戦車などの機材を利用して、戦車師団「ノルヴェーゲン」が編成。もう、この頃になると訓練部隊扱いで、兵員は戦車師団の再編成の要員に持っていかれては、新たに編成といったパターンに。
 鹵獲されたソミュアS35だの、オチキスH38などが萌える。S35は、割と好きな戦車。あとは、補助装甲列車とか。使われている装備の牧歌的な感じがいいなあ。しかし、20万からの兵員を貼り付けっぱなしって、末期戦では、もったいない話だなあ。


 後半は、1944年10月のオストプロイセンでの、ソ連第11親衛軍の撃滅のエピソード。やはり、狭い正面で突破して、奥に侵攻すると、後を塞がれて壊滅するのだな。ヘルマン・ゲーリング師団だの、第一歩兵師団だの、部分的に優秀な部隊がいて、機動戦で包囲、殲滅したという感じか。一方で、重装備を捨てて撤退する兵員を全部捕捉するような戦力はもうなかった、と。
 ラストは、SS第五戦車師団ヴィーキングから、後方に、戦車の受領に送り込まれた部隊の戦い。ニコルッシ・レック大尉指揮下の部隊は、ハノーファー周辺で、英米軍部隊の突破に対して防衛戦を展開。さらに、戦線後方に取り残され、友軍部隊との合流を目指す。装甲兵員輸送車とヤクトパンターが、ある程度まとまって、戦意旺盛な指揮官の元にいると、それなりに劇的な展開になるな。結局、友軍への合流はできなくて、徐々にすりつぶされていくわけだが。
 あと、こういう末期戦になると、指揮官の戦意が大きな影響を与えるのだなあ。同様の状況にあった第130戦車教導連隊第2大隊の空中分解と比べると。まあ、こちらのほうは、友軍戦線にたどり着いた兵員がそれなりの数いるわけだが。


 SS部隊や機甲部隊については、精鋭部隊からド貧部隊まで、日本語で情報がえられるようになった現代だが、実は、普通の歩兵師団の情報が一番少ないような気がする。本書でも、ソ連軍に突破された歩兵師団が、脇役というか、舞台装置感覚でたくさん出てくるが、彼らはどのように戦ったのか。

 この間、中央軍集団は38個師団のうち28個師団が壊滅し、35万人から40万人が死傷または行方不明となった。そして、軍団長または師団長として戦線にあった47名の将官のうち、10名が戦死・行方不明となり、21名が捕虜収容所行きとなった。p.278

 バグラチオン作戦による、中央軍集団の壊滅っぷり。将官クラスでも、3/4が戦死・捕虜ってのは、ソ連軍の全面破壊ドクトリンの威力を物語っているな。師団長クラスでも、脱出できなかったわけだ。