日経コンストラクション編『インフラ事故:笹子だけではない老朽化の災禍』

インフラ事故 笹子だけではない老朽化の災禍

インフラ事故 笹子だけではない老朽化の災禍

 笹子トンネルの天井崩落事故をうけて刊行された、インフラ老朽化とそれへの対応に関する2010年から2013年あたりの記事を集成した本。土木系の雑誌だけに、橋とトンネルがメイン。
 70年代と90年代に集中的に整備された土木構造物は、今後、まとめて老朽化・更新の時期を迎える。これを、全部更新していくのは難しい。マメに補修する長寿命化が必要。しかし、補修や管理のためのコストは上昇する。万能薬ではない。人口が減少していく地域では、過大なインフラを整理し、撤去する決断も必要になる。
 しかし、本書を読んでいて印象的なのは、行政における文書管理の不備。190年頃に架けた橋の設計図や資料が行方不明で、想定で設計したら、まるきり違った事例(p.100)。あるいは、天草市の一町田橋は破損が発覚したが、「合併前の点検状況など詳細な情報は不明だ」だそうで、ひどすぎる。あるいは、本書の発端となった笹子トンネルにしても、天井部分の設計資料は残っていないという。こういうのは、永年保存の類なんじゃなかろうか。逆に、設計資料が揃っていたため、対応が迅速に出来た事例もある。公文書資料の重要性は、こういうところに真っ先に出てくる。


 本書は、6章構成。
 第1章は、写真メイン。笹子トンネルをはじめ、老朽化による落橋や陥没のビジュアルな紹介。第2章は前半のメイン。笹子トンネルの事故と、橋の部材破断事故や道路・盛土の陥没、トンネルの事故などが紹介される。しかし、笹子トンネルの事故、何十年も重量物を吊り続けるのに、接着剤はないわあとしか言いようがない。70年代には、こういうモノに対する劣化の懸念がなかったのかもしれないけど。文化財保存でもセロハンテープが蛇蝎のように嫌われるけど、かつてはガンガン使われていたり。
 あるいは、木曾川大橋や本荘大橋の斜材破断や一ツ葉大橋のケーブル破断など。材料の境目が腐食しやすい。そこを見えなくしてしまうと、点検が行届かなくて、気がつかないうちに、取り返しがつかないほど破損して、大きな補修費用が必要になる、と。


 第3章は、補修に失敗してのトラブルの話。思わぬところで、余計に劣化を促進させたり。大きな損傷を見逃したり。


 第4章は、予防保全と長寿命化について。後半のメイン。密に点検チェックを行うために、人材の育成が必要。さらに、今まで放置されてきたインフラの大規模な補修を最初に行う必要があるため、初期投資がかなり必要で、長期的にも細かい補修や点検などのために、維持費用は高止まりする。制度構築が大変。
 また、インフラの維持費を削減するために、ライフサイクル全体を見通した設計や材料選択が必要になる。継手の疲労損傷をなくすために一枚板にするとか、短い橋だとあ、あえて高いFRPを導入したり。施工品質も重要になると。


 第5章は、「ストック時代の社会資本」ということで、過去のストックを活かして魔改造したり、便益が小さい施設なら撤去と言う選択肢も浮上してくる。更新や維持管理のコストも捻出できなくなる可能性が高い。特に、人口が少ない地域では過剰なストックの負担に苦しむことになる可能性がある。廃止を決めるための手続きを、住民参加も考慮しつつ、制度化する必要がある。


 第6章はまとめ。インフラのストックは、2020年ごろがピークになる。つーか、1990年代に、新設ではなく、維持管理にパラダイムシフトしていれば、現状はまた違ったのかもな。内閣府の白書『日本の社会資本』にしたがって、インフラの種類を分類しているが、道路関係の設備のシェアが非常に大きいのだな。大都市では、上下水道のストックが大きいとか、治水のインフラが割りと大きいとか。人口減少で、過大なストックの維持費に苦しむ地域が出てくる可能性もあり、予防保全では不十分。インフラの選別が必要、と。