平成30年度第3回被災文化財復旧情報講演会「被災文化財の復旧と保護に向けての取組み」

 なんか、やたらと早く目が覚めて、そのあと寝直したので、どうも生活のリズムが。ただでさえ低下している集中力が、もう、悲惨な状況。なんか、ここ数日寝苦しいのだが、最低気温が高いのかな。
 まあ、熊本城マラソンで、交通も混乱するだろうから、これはこれで構わない感じだが…


 というわけで、昨日積み残した後援会のまとめ。
 県主催の講演会。前回は、熊日と共催だったけど、今回は単独だから、パレアなのか。事務は、熊日に委託しているようだが。
 今回は、文化財の復旧と同時に、「市民参加」が特に強調されているように感じた。修復のための予算を確保するためにも、一般の理解が重要になってきている時代ということだろうか。


 講演会は、最初の20分ほど、小学校への出前授業への「事例報告」。その後、山尾敏孝氏の講演。


 最初は、教育委員会の出前事業の報告。
 いや、小学生は素直だなあ、と。中学生以上だと、わざと「文化財の保存は必要ない」とか言い出す中二病高二病患者が確実に出ると思うが。防災なんかでもそうだけど、早い段階での教育は有効なんだな。
 アンケートに関しては、特に感銘を受けなくても、否定的なことをわざわざ書いたりはしないし、過大評価はできないような。


 残りの一時間で、山尾氏の講演。橋梁建築の専門家で、熊本県文化財保護審議会会長。建築物系の文化財の修理の検討なんかには、欠かすことのできなさそうな人。熊本は、石橋も多いし。
 全体の構成は、被災文化財の状況、地震発生後の取り組み、取組の成果と意義といった構成。


 最初は、「熊本地震による被災文化財の状況と復旧状況」ということで、写真を多用しながらの、文化財の被害状況の解説。
 派手に壊れた熊本城や阿蘇神社の楼門あたりがよく取り上げられるが、県全体で文化財の被害は発生している。菊池市天草市での石橋の損壊など。
 国・県指定、国登録文化財159件で被害が発生し、復旧率は50%ほど。登録文化財の復旧の遅れが顕著だなあ。未指定歴史的建造物に関しては、文化財ドクター派遣事業などの効果で、160件中、130件が保存意向に転じた。解体が26件。未指定動産文化財は、3万点がレスキューというのが現在の状況。
 熊本城は、2037年度の復旧完了を目指して、作業中。あと、18年はかかるのか。櫓の復元は、あきらめてもいいんじゃないかねえ。重要文化財と石垣重視で。天守閣の被害では、大天守が石垣に荷重をかけない設計だったため被害が軽微で、荷重をかける設計の小天守で被害甚大だったという。設計者の先見の明が印象に残るなあ。
 石橋は、21橋に被害。側壁が倒壊した事例が多い。かなりの橋が、修復完了している。一方で、通潤橋はその後の長雨で側壁が倒壊して、また、改めての修理作業が必要になっている。宇城市の下鶴橋は、アーチの輪石が緩んで、この状況でも倒壊しないのかというレベルだった。そのうえで、梅雨の時期の洪水で流失。
 1918年に作られた、南阿蘇村の銭瓶橋も印象に残る。側壁は四面とも崩れているが、アーチ部分は、この時代になるとモルタルで接着されていて、生き残った。
 古墳の被害も大きい。装飾古墳が国や県の指定を受けているが、内部の石室が崩壊したり、墳丘が崩れた古墳が複数。
 また、阿蘇神社の楼門をはじめ、神社仏閣の被害も大きい。十三重塔や傘塔婆といった石造物の破損が目立つが、地震の振動の周期が、こういう建造物に被害を与えやすい周期だったと。


 二番目は、「被災文化財保護に関する地震発生後の取組」。
 指定文化財に関しては、被害の調査、復旧の検討、修理の開始といった流れ。市町村の指定文化財の現地調査の開始が8月にずれ込んだのが、体制の脆弱さを物語るなあ。熊本市でも、益城町でも、避難所の運営や支援などで人的な余裕がなかったようだ。命に係わる問題が優先されるのは分かるが、文化財も早く処置したほうがいいのだし。このあたりの、人間のやりくりは、検証されるべきかもなあ。避難所運営は、国レベルでプロを養成、災害の時に投入する方式のほうが経験値がたまってよさそうだけど。ここ数年を見ても、丸一年仕事がないということはなさそうだし。
 未指定文化財へのレスキュー事業、文化財ドクター派遣や基金による支援などが、熊本地震で創設された新制度。寄付を原資にした、「熊本地震被災文化財等復旧復興基金」による、有識者による検討による、未指定文化財への補助が画期的らしい。
 個別の物件の災害からの復旧みたいな、単発的な事業は、クラウドファンディングと相性がよさそうだけど。


 最後が「被災文化財の復旧の取組による成果と文化財継承の意義」。
 「市民」の理解の必要性が強調されるのが印象的。遺産として保存していく社会的合意がないと、文化財を維持していくのが難しい時代。
 文化財ドクター事業による、直接所有している人々の意識を変えることが、保存意向の増加に寄与しているように、働きかけが大事。その意味で、小学生への出前授業も大きな意義がある。
 あとは、文化財保護法の「活用」のポジティブなほうの意義とか。死蔵するのではなく、社会が変化していく時代に、社会との相互作用を作って、維持していくといった感じなのかな。