西澤丞『イプシロン・ザ・ロケット:新型固体燃料ロケット、誕生の瞬間』

 これで、西澤作品も三作目。タイトルの通り、イプシロン・ロケットの部品製造から打ち上げまでの姿を追った写真集。ただ、やはり、写真集という形式が、こういう題材にはあまり向いていないような気がするなあ。ロケットのディテールは興味深いのだが、全体が見えないというか。後半の、ロケットがロケットらしくなってからが、見てて楽しい。
 要所に挟まれるインタビューが大事。


 全体の構成は、部品の生産が行われる「町工場」、部品の組み付けが行われる「艤装」、フェアリングの各種試験を撮した「試験」、ロケットに乗せる衛星の組み立てを撮す「人工衛星」、主要なブロックを打ち上げ施設に運ぶ「輸送」、第二段から衛星までを組み付ける「組み立て」、そして、第一段と上部を結合する「射座据付」からの、最後は「打ち上げ」の構成。


 一番目は部品の製造。工業製品において、「職人技」というのは褒め言葉だろうか考えるようになっている、今日この頃。とはいえ、試作機では、職人による一品生産は、基本ではあるなあ。アリアンとか、スペースXのファルコンシリーズなんかは、どんな風に部品を調達しているのだろうか。ロケットは、数が出るものでもないし、性能が最優先になるから、どこでも、切削加工がメインになるのかな。
 シリンダーのテスト加工品、3トンのアルミ塊を20キロまで削り込むってのも、豪快だなあ。
 あと、見積もりが機械を動かしている時間で算出という青木精機のやり方は、値付けを間違えている感が。動かしている時間にいくらつけているか次第ではあるが。


 2段階目は、機器の組み付け。ケーブルが山ほどあって、これをミスなく張るのも、ノウハウなんだろうなあ、と。今時の大型メカは、配線の手間がものすごく大きそう。
 続いては、フェアリングのテスト。全体の契約はIHIで、フェアリング製造は川崎重工なのか。強度や内部の環境、ちゃんと分離するかのテストを行う。ロケットのフェアリングって、真っ二つに割れるんじゃなくて、先端の半球状のキャップが片一方についていくんだな。
 さらに、フェアリングの中に納まる人工衛星の製造。クリーンルームでの作業と、なかなか繊細らしい。壊れても、修理のしようがない上に、重量制限が厳しいと、そうなるのかな。インタビューの打ち上げ頻度が重要という指摘が印象的。5-6分野あって、頻度が下がると、研究の機会が低下してしまう。衛星価格を安く抑えるために、標準バスを導入など。


 「輸送」フェイズからが、写真集の本領って感じがする。写真映えする、迫力のある絵が増える。第一段が、内之浦に搬入されるシーン。美術品もそうだけど、こういう特殊輸送にあると日通の独壇場なのかね。船で港にやってきて、クレーン船で荷下ろし。多軸台車に乗せられて、射場へ。重量物運搬用のトランスポーターがかっこいいねえ。
 インタビューは、射場の運用担当の職員。高専から機械一般でJAXAに採用されるパターンもあるのか。


 続いては、組立室で、二段目以上の結合。大物だけに、でかいクレーンを使って、移動させる。二段目から上だけでも、直径2.6メートル、16トンからのものだけに、なかなか扱いが大変そう。衛星の搭載は、クリーンブースで行う。
 あと、第一段モータのノズルの横に空調用ダクトを差し込んでいるのは、固体燃料の劣化を防ぐためなのかな。なんか、おもしろい。


 最後は、発射台に据え付け。まず、第一段を立てて、その上に上段を載せる。ここでぶつけたら、全部台無しだから、気を遣うだろうなあ。フェアリングに、空調用らしきダクトがつながれているのは、気圧を高めて、ほこりの侵入を防ぐためなのだろうか。
 整備棟が二つに割れて、発射台露出。最後は、打ち上げを近距離で撮影した連続写真で締め。常々思うのだが、ロケットの炎にさらされた発射台って、どの程度、ダメージを受けるのだろうか。イプシロン1号機を打ち上げた発射台も真っ黒だけど、見た目ほどダメージはないのかな。


 重量物運搬用の多軸台車、かっこいいなあ。
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