江口晋『海防艦第二〇五号海戦記:知られざる船団護衛の死闘』

海防艦第二〇五号海戦記―知られざる船団護衛の死闘 (光人社NF文庫)

海防艦第二〇五号海戦記―知られざる船団護衛の死闘 (光人社NF文庫)

 タイトルの通り、海防艦の戦記。あるいは、軍国少年が負け戦の現実を知るまで。
 1944年10月に就役した艦に、新兵として乗艦ということは、本当に末期戦の状況しか知らないわけか。しかし、205号海防艦は、本当に強運というか、良く生き延びたなあといった感が強い。南シナ海アメリカ空母機動部隊が侵入し、護衛部隊ごと輸送船団が次々と撃滅されていく中で、数度の空襲も、大きな損傷を受けずに生き延びている。艦長の停泊地での位置取りが良かったのだろうなあ。
 せりや丸の特攻燃料輸送を途中まで護衛していたとか、安全な場所にいたわけではない。というか、米軍が上陸中のリンガエン湾に飛び込もうとして、直前で引き返していたり、本当に危ない橋を渡っている。
 後半は、北方での輸送護衛。千島列島から本土に移動する陸軍部隊を護衛する。一転して霧の中の航行。そして、室蘭の砲爆撃を潜り抜ける。


 しかし、呉軍港で弾薬の補給を拒否されたとか、本当に末期戦感があるなあ。もはや、対空戦の弾薬すら事欠く状況。自衛もままならないレベルって。
 あと、初出航時の台風でさんざん揺られて、乗員ほとんど船酔いって状況を見ると、800トン弱の大きさの船では、外洋行動は難しいのだろうな。
 現場の軍人は、目の前の作戦や作業に忙殺されて、むしろ戦況全般に関する情報を持っていないというのも興味深い。被災地が情報隔離されてしまうような状況か。


 訓練中のエピソードでは、毒ガスの暴露訓練が印象深い。というか、ちゃんと洗浄しないのか。旧日本軍の化学戦のレベル、割と低かったんじゃ。
 あとは、もう、促成栽培で反復練習をする状況ではなかったとか。随所に余裕のなさがにじみ出ていて。逆に言えば、地獄のような訓練とか虐待をやっている暇がなかったとも言えそうだが。