奈良文化財研究所『見るだけで楽しめる!平城京のごみ図鑑:最新研究で見えてくる奈良時代の暮らし』

 子供向けの特別展を、大人も楽しめるように再構成したビジュアル本。ゴミとして廃棄された遺物を、どのように分析するかまで紹介されていて楽しい。ただ、ビジュアル本だけに、要約は難しい感じがするな。


 平城京のゴミ処理のあり方が興味深い。木製品は、焚き付けにでも使えそうだけど、普通に穴掘って、埋めるのだな。ゴミ捨て用のでかい穴を掘って埋めたり、古井戸に放り込んで埋めたり。平城京の中心部は地下水位が高くて、おかげで木簡などの木製品が多数保存された。京都では、木簡の大量出土とか、木製品の大量出土なんて聞かないけど、ゴミの処分の仕方が変わったのかな。地下水位が高いところもありそうだけど。


 第二章が、出土したゴミのアラカルト。使い古しの下駄・砥石、硯・墨など。漆や塩の容器は、使うときに割って、廃棄される。あるいは、平城京内にあった古墳の埴輪をぶっ壊して捨ててたり。けっこう、金属製品が出ているのも面白い。だいたい、鋳つぶして再利用するのだろうけど、建築装飾の一部は、解体時にゴミに混じり込んでしまう。あとは、絵や文字の練習や落書きがされている木片や土器片など。捨てるものだから、ということか。
 ゴミ捨て場から出てきた食材が興味深い。海産物として、ウニやトビウオ、サザエ。淡水生のフナ。クルミ、カキ、クリ、モモ、ウメ、ウリ。流通の要だったことは分かるなあ。海産物は、ウニやサザエは、活かしたまま運んだのかな。
 包丁を入れられたとおぼしき真鯛の頭骨が興味深い。口や眼窩を横真っ二つって、どういう利用の仕方なのだろうか。出汁でも取ったのかなあ。「汁物やアラ炊き」と推測しているが。
 ゴミの捨て場による違いの紹介も興味深い。大内裏の役所、寺院の食堂、長屋王邸のそれぞれの出土品の違い。それぞれ、食膳具が多いのは、大きな組織では給食を行っていたから、まとまった調理用とか、そろいの皿とか。長屋王邸は、商売や工業生産など多彩な活動を行っていたので、出土品がバラエティに富んでいるのが興味深い。寺院だと、仏具っぽいものが、食堂でも出てくる。
 あと、余さず利用している感じがおもしろい。割れた土器などを硯に使うとか、落書きや練習に捨てる木材や土器を使ったり、木簡を容器に仕立て直したりとか。瓦は、焼成に燃料が必要だから、解体した建物の瓦を別の場所に運んで再利用するのは、よくあることだったらしい。


 第三章は、平城京の出土物の代表とも言うべき木簡の話。当時の、具体的に使用された文書類だけに、後世の編纂ものでは分からないことも、明らかにできる。遺跡に絶対年代を与えることも。木材だけに、脆弱で、保護処置が必要。
 書かれた内容としては、荷札、役人同士でやり取りする書類、練習用など。
 どのようなものが流通していたか、どこから運ばれてきたかが明らかになる荷札木簡の力。あるいは、人事管理など様々な情報をカード化するのに利用されたり。様々な食料品を請求する文書とか。「おかずがまずい」なんて木簡が出土しているのがおもしろい。まあ、出される食事の良し悪しは、仕事の能率に影響するよなあw


 第四章は、排泄物から分かること。地下水で保存状態が良い肥溜めを発掘かあ。なんか、嫌だなあ…
 「トイレの遺構」を確認するのは、けっこう難しいというのが興味深い。排泄物がためられている場所がトイレとは限らず、一時的な保管場所出会った可能性があって、証明できない。用を足すための渡し板や建物、整然と並んだ穴などの施設の存在、あるいは、少なくとも、排泄物を拭うための「籌木」が集中したところである必要がある。そういう候補としては、左京二条二坊五坪の遺構が可能性が高い、と。貴族の館だと、おまるに用を足すから、余計見つけにくいそうな。
 で、この排泄物に含まれている寄生虫の卵を分析することによって、食生活を明らかにできる。野菜にひっついてる回虫や鞭虫、吸虫は淡水魚、条虫は肉とそれぞれ違う。で、これらの量を比較することでどのようなものを食べていたのか。あるいは、加熱の度合いなどが明らかになる。野菜と淡水魚がメインで、肉類が少なかった。あと、加熱が不十分だったことが明らかになる、と。
 あとは、同様に排泄物に含まれる種や殻など、消化しきれなかった植物も、当時、何を食べていたかの情報になる。さまざまな果実を食べていたし、野菜や雑穀を利用していたことが分かる。同定が大変そうだけど…


 前後の第一章、五章は、平城京の解説やゴミを研究することの意義、奈良文化財研究所の紹介など。