『ミリタリー・クラシックス』Vol.66

 今回の特集は、九七式戦車チハとフランスの戦艦リシュリュー級。どちらも、割と気になる部類。


 第一特集は、第二次世界大戦中、日本軍の主力戦車であった九七式中戦車の開発構想や技術的特徴、戦歴など。
 なんというか、みんな貧乏が悪いんや、と言いたくなる話だなあ。
 戦闘能力が高い戦車が欲しかった戦車部隊と安い車両で数を揃えたかった参謀本部の意見対立が、チハとチニの二種類の試作車を生みだした。で、一人乗り砲塔のチニ車に積める砲ということで、八九式以来の58ミリ砲になってしまった。チハ車は75ミリ級の砲が積めるように考慮されていたそうだから、この時、素直に山砲か歩兵砲級の75ミリ砲を積んでいれば、シャーマン相手にも、タ弾で対抗できただろうに。歩兵砲や山砲に、この種の弾薬が供給されて、対戦車戦力になり得ていたわけだし。
 あとは、戦前の大日本帝国の技術的限界。チハの25ミリ装甲板は、当時陸軍管下の工場で生産できる最大の暑さの装甲板だった。あるいは、空冷ディーゼルエンジンが、予定通りの出力を出せず、アンダーパワーであったこと。足回りも、重量的限界に近い。
 一方で、ルノーNC以来の戦車運用の蓄積で、車長と砲手を分けた二人乗り砲塔や雑音対策がキチンとされた無線機で、組織的戦闘能力は比較的高かった。中国戦線やマレーでのジットララインやスリムの殲滅戦、占守島での上陸部隊撃退戦などでは、そういう考慮が生きたのかな。つーか、フランスやソ連が、一人用砲塔だったり、車長・砲手兼任にしたのは、どういう分析に基づくものだったのだろうか。
 実は、制式化されたのが、47ミリ砲搭載の砲塔の実用化後だったというのが興味深い。「試作車」扱いで、1000両近く生産されたのか。というか、本当に欲しかったチハ車が、一式中戦車チヘなんだな。それも、量産が1944年じゃお話にもならなかったわけだが。


 戦歴、大戦初期には華々しい活躍もあるけど、M3軽戦車やソ連のBT戦車に苦戦して、M4シャーマン相手にはほとんど歯が立たないと、相手に有力な戦車が登場するとどうしようもなくなる。20トン級の三号戦車が、大戦中盤以降お呼びでなかったことからすると、チハ車が終戦まで引っ張られたのが悲劇としか言いようがない。
 逆に、有力な対戦車火器、戦車を保有しなかった中国軍相手では、「頼りないと思ったことはありません」という感想になるのか。つーか、12.5ミリ機関銃でも、垂直に当たったら貫通するのか…
 M3スチュアート軽戦車やイギリスの巡航戦車、イタリアの中戦車が15トン級か。つーか、同じくらいの重さなのに、M3軽戦車は、なんであんな重装甲が可能だったんだろう。




 第二特集は、フランス戦艦リシュリュー級。イギリスのネルソン級戦艦とか、フランスの新型戦艦みたいな、艦首側に主砲を集中した戦艦のデザイン好き。
 しかしまあ、結局、リシュリュー級って、未成戦艦だったわけだな。そして、戦艦というハードウェアを十全に働かせるには、充実した後方支援設備が必要。しかし、フランスの敗戦で、それは失われた。そして、戦後には、連合軍の爆撃や戦後の混乱で、後方支援能力は再建されず、低調な活動のままだった。金かけるなら、戦艦じゃなくて核兵器や空母に回すよなあ。
 十分強力な戦艦だと思うが、結局、まともに働く機会は来なかった。それでも、ダカールカサブランカでの同級戦艦の活躍は十分な見せ場だったんじゃなかろうか。バーラムに命中弾を与えているし。
 カタログスペック通りなら相当有力な艦で、連合軍も魅力的に感じたが、フランス基準の各設備、弾薬を一から製造するなどの手間は大きく、それに相応する戦果は確保できなかった。一番、戦艦が不足して苦しい時期に間に合わなかった。
 つーか、ヨーロッパ戦線では、戦艦、けっこう活躍してるんだよなあ。




 連載では、イタリア軍を扱った「知られざるイタリア将兵録」、「蒼天録」、「世界の軍用銃」などがおもしろかった。
 「知られざるイタリア将兵録」は、イタリア軍機甲師団の話。よく考えると、シャーマン対チハと同じ構図なんだよな。しかも、こっちは平坦な砂漠という。イタリア軍の活躍というとピンとこないが、機甲師団の戦いは勇戦と言えよう。


 「蒼天録」、今回は瑞雲部隊のお話。空母機動部隊の補助爆撃機から、陸上航空隊の一翼としてフィリピンでの活躍。夜間に、魚雷艇狩りで戦果を上げている。もっとも、実際にどの程度の被害を与えたか不明だけど。米側の記録と突き合わせた成果はあるのかな。フィリピンで、航空攻撃による撃沈って、あんまり無いみたいだけど。


 「世界の軍用銃」は、ステンガン。うーむ、いつ見ても醜い銃だこと。とはいえ、量産性にステ極振りした、お安い銃。撃発不良の問題があったが、評判は悪くなかったとか。