飯塚芳徳他『なぞの宝庫・南極大陸:100万年前の地球を読む』

 うーむ、古気候復元の話は難しくて、よく分からない。南極の大陸氷床をボーリングして得たコアの、氷に含まれる各種元素や封じ込められた大気から、さまざまな情報を引き出すことができる。そこからは、北半球と南半球での、最終氷期終了後の温暖化の時期のずれやヤンガードリアス期の急激な寒の戻りのメカニズムなど、さまざまなデータが得られる。しかし、いつも思うのが、結論を導き出すのに仮定が多すぎて、なんか怪しい気がするんだよねえ。
 あと、本書によると、氷床の封じ込められた大気って、100年くらいかけて外気と切り離されるんだよね。だとすると、氷から取り出した大気の時間分解能は、ずいぶん荒い物になりそうに見えるのだが。


 南極大陸の氷床の消長が、地球の海水準とか、熱循環に大きな影響を与えるということは、よく分かった。


 全五章で、最初の2章は南極大陸の紹介。前者は地理的条件を、後者は歴史を。
 氷床の重みで、陸地は大半が水面下に沈み込んでいる。また、氷床の下には、隠れた湖があり、川が流れている。もしかすると、氷床下生態系とかあるかもな。火山噴出物で生きる。
 南極探索の歴史も興味深い。19世紀前半、1820年あたりから、なんか大陸がありそうだみたいな目星が付いていて、南極半島などの南極大陸本体を発見が相次ぐ。そして、そこに上陸しての越冬や南極点到達は20世紀に入ってから。本格的な探査までに100年かかったのか。
 南緯60度あたりに「南極前線」があって、そこから急に気温が下がる。海水温も、「南極周極流」で、ある程度明確に線引きできる。その、南極周極流が形成されるのは、他の大陸から南極大陸が切り離された3000万年ほど前。そこから、南極は氷に封じ込められた大陸となった。意外と最近の話なんだな。


 第三章は南極の氷床について。この氷床の収支バランスが重要であると。で、どのように蓄積と流出が起きているのかの見積もりとそのメカニズムの解明が重要な課題である。


 第四章は氷床のコアの分析がどのように行われるか、そこからわかる過去数万年の気候変動など。酸素同位体が気温の変化に反応する。重い酸素同位体が多いということは、活発に水が蒸発し、大量の水分子が大陸中心部に運ばれた。少なければ、逆の動きがあった。
 そのような同位体比の分析から、かなり複雑な動きをしていることがわかる。南半球と北半球で、気温上昇のタイミングが異なるなど、一律に動いていたわけではないことがわかる、と。細かいところは、全然理解できていないけど…


 ラストの第五章も、気候関係の話だが、こちらは他の方法での分析。堆積物が宇宙線に曝された度合いを分析し、その土地が氷に覆われなくなったのかを明らかにする。「きざはし浜」と呼ばれる土地の海岸段丘や土地の隆起で取り残された湖から、過去7000年くらいのスパンでは、氷床の減少が起きている。氷床の荷重が減ったことから、アイソスタシー的に、土地の隆起・海水準の低下が発生し、海岸段丘や取り残された塩湖が生まれる。
 あるいは、計算すると、現在見積もられている氷床と過去の海水準が一致しないなど、まだまだ分からないことだらけなんだな。それだけ、研究のタネが眠っている大陸であり、ここでの情報が今後の気候変動の人類社会への影響を見積もるデータになる。


 103ページの「コラム3-2:南極大陸への空路」がおもしろい。最近は、飛行機で割と短時間に南極に到達できるようになってきている。南極大陸内では、バスラーターボと呼ばれるDC-3の改造機が各拠点を結ぶ。今時、尾輪式の飛行機が現役なのか。
 調べてみると、割と新しい時代に新造された機体のようだけど。そもそも、与圧室がなくて金属疲労の度合いが小さいこの時代の飛行機は、今時の飛行機よりも長く使えるのかな。戦闘機みたいな無茶な軌道をするわけでもなし。
 形式としては、バスラーBT-67というようだ。
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