若林純『寺社の装飾彫刻:宮彫り―壮麗なる超絶技巧を訪ねて』

 タイトル通りの、江戸時代を中心とした寺社の装飾彫刻の写真集。九州地域を含む本を借りてきたつもりだったら、間違えて一冊目の本を借りてきてしまった模様。
 全国の寺社に施された装飾彫刻を紹介する。彩色の絢爛豪華なモノ、白木の彫りを見せる主体のモノなど、いろいろ。凄いなあ。注ぎ込まれたエネルギー、江戸時代の信仰心を思い起こさせる。
 ただ、儒教的な故事とか、掘られた動物の意味などを知らないだけに、楽しめていない感じはあるなあ。あと、近代に入った作品で、日清戦争平壌の戦いにおける玄武門の戦いのシーンを描いた025篠葉沢稲荷神社本殿(福島市)や外交交渉のシーンとおぼしき八條八幡神社本殿(埼玉県八潮市)などがおもしろい。また、精緻な彫刻を保護するためか、覆い屋が設けられているの印象的。


 解説の伊東龍一「彫物の江戸時代」が興味深い。戦国時代末からの彩色彫刻が引き継がれ、18世紀後期には素木の彫刻へと転換していく。1744年造営の出雲大社や寛政期以降の御所は、シンプルな造作になっているが、それ以前には多くの装飾彫刻が刻まれた建物だった。
 江戸時代の文人達の建物の評価に、装飾彫刻が重要だったという指摘がおもしろい。彫刻の質量が重要で、装飾のないシンプルな造作の建物は、どこがいいかわからないと述べる十方庵敬順のような人物もいた。
 あとは、関東方面では地紋彫や一木彫で寺社彫刻が彫られたが、九州や関西では仏像の技術を応用した寄木造で彫物が制作されたという地域性の指摘。


 ネット上では、こういうサイトがある。
syo-kazari.net