今年印象に残った本2020(一般部門)

 日本史の本がメインなのに、なんでか、ここには二冊しか残らなかった攻撃。まあ、並べると、選べないんだよなあ。

10位及川輝樹・山田久美『日本の火山に登る:火山学者が教えるおもしろさ』

 地学枠。
 山と渓谷社の本だけに、火山登山の楽しみと、危険にどう対応するかをメインとした本。4章の、日本の火山を実地に紹介するところがおもしろい。地理院地図を見ながら読むと、なんとなく、どういう場所か、火山による地形変動も見えて楽しい。地理院地図の傾斜を見せる地図を使うと、意外と火口が地図に表現されている。

9位詫摩佳代『人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差』

 コロナ禍で、何冊か感染症系の本を買ったけど、読み終わったのはこの一冊のみ。なんか、本が読めてないなあ。
 感染症を中心とする病気に、人類全体規模でどのような組織を育ててきたかという話。公衆衛生とは、政治的中立性などなく、様々なプレイヤーの思惑を組み込みつつ発展してきた。冷戦中では、ソ連天然痘撲滅を支援して成果を上げた一方、マラリア撲滅にリソースを突っ込んだアメリカが最終的に失敗した話など。
 そして、今や生活習慣病や途上国の「顧みられない熱帯病」が主要な課題になりつつある。タバコ禁止をめぐる攻防が印象深い。

8位『集落が育てる設計図:アフリカ・インドネシアの住まい』

集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)

集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)

  • 作者:藤井 明
  • 発売日: 2012/12/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 建築枠。
 アフリカやインドネシアの民家を紹介する企画展の図録。それぞれ、地域の環境に合わせつつ、自分たちのアイデンティティや世界観を住居を通じて描き出している。デザインがそれぞれ違っていて、おもしろい。
 アフリカ、サブサハラ地域の住居に据え付けてある穀倉がおもしろい。巨大な土器。乾燥地だと、通気はあんまり気にしなくて良いと言うことなのだろうか。

7位湯浅治久『中世の富と権力:寄進する人びと』

 日本中世史からは、これ一冊のみ。日本中近世史の本が一番多い割に、あんまりランクインしなかった。政治史系の本をメインに読んでいたけど、やっぱり、こういう社会経済史のテーマが好きだなあ。
 「寄進」という行為を通して、人のつながりができ、それが政治力に立ち上がっていく。それを、長いスパンで追った本。「寄せ沙汰」とほぼ同様という指摘がなるほどなあ、と。

6位中谷功治『ビザンツ帝国:千年の興亡と皇帝たち』

 西洋史関係は、この一冊だけか。
 中期をメインとしたビザンツ帝国の通史。かつては、時代区分が重視されたが、最近の研究はむしろ連続性を強調する方向性に変わってきているのだな。実証的に考えると、時代区分をぴったり作るというのは、やはり無理があるのだろうな。
 「ローマ帝国」の権力継承は、むしろ軍事力が占める比重が大きいため、血統での継承は度々途切れて、軍人皇帝の騒乱の時代がやってくる。そこを勝ち抜いた勢力が、皇帝位を100年くらい継承していくというパターンが続く。その中で、徐々に削られていく。そんな歴史。

5位山田康弘『つくられた縄文時代:日本文化の源像を探る』

つくられた縄文時代: 日本文化の原像を探る (新潮選書)

つくられた縄文時代: 日本文化の原像を探る (新潮選書)

  • 作者:山田 康弘
  • 発売日: 2015/11/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 今年は縄文時代本を何冊か読んで、小畑弘己『タネをまく縄文人』とどっちを入れるか迷ったけど、最終的にこちらに。学説史や「階層社会論」などがおもしろかったので。
 「縄文時代」を様々な観点から論じている。確かに、「新石器時代」でいいはずのところをわざわざ、縄文時代と名付けたのには研究史的な背景がある、と。時代区分や縄文文化の広がり、地域的多様性、稲作をどう評価するかなど、論点が興味深い。

4位釜井俊孝『宅地の防災学:都市と斜面の近現代』

宅地の防災学: 都市と斜面の近現代 (学術選書)

宅地の防災学: 都市と斜面の近現代 (学術選書)

 災害関係からはこの一冊。
 近代の都市計画の失敗の歴史と、近年の都市部における地盤災害の歴史。1990年代から、都市型の土砂災害が急増しているのが印象的。盛土造成地の危険度の高さが印象深い。地震で崩壊する、集中豪雨で崩壊する。リスクしかないな。
 そして、新たな土砂災害のリスクとして、不法投棄された建設残土が立ち現れつつある、と。

3位香月洋一郎『馬耕教師の旅:「耕す」ことの近代』

馬耕教師の旅

馬耕教師の旅

 春先に熊本博物館であった宮本常一の展覧会に刺激されて、何冊か読んだ関連書からは、これを選出。弟子筋にあたる方の著作。前々から、読もう読もうと思いつつ、手が出なかった本。
 20世紀前半、農業の機械化の前に、家畜牽引犂が大々的に喧伝普及される時期があった。公的機関や馬耕犂のメーカー、農業技術に熱心な地元の人などが合わさって、技術伝習が盛んに行われ、「馬耕教師」が派遣された。教師自身、そして、受け入れ側の聞き書き
 内燃機関が普及する前、素材流通が潤沢になる、純粋に「産業革命」の時代の姿といったところか。

2位ピーター・ワダムズ『北極がなくなる日』

北極がなくなる日

北極がなくなる日

 もう、遅い…
 いや、これを読んでしまうと、悲観的にしかならない。気候変動が進むのに十分な量の二酸化炭素が大気に注入されてしまっていること。それに対して、ジオエンジニアリングや原子力への忌避感を諦めることが提言されているけど、それで本当にどうにかなるのかねえ。少なくとも、大気中から二酸化炭素を除去する方法を模索する必要がありそう。

1位三浦英之『牙:アフリカゾウの「密猟組織」を追って』

牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って

牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って

 野生のアフリカゾウは、もう、風前の灯火の状態なのだなと理解できる本。アフリカの底なしの腐敗と中国の暗躍、そしていろいろな意味でロンダリングに使われている日本の姿。
 殺し方がエグい。
 大型の恒温生物は、それだけ燃料が必要。雨期と乾期があって、食糧補給に知恵が必要なサバンナ地域で、老練な個体から殺されていく。天敵は自らの体なのだな。そして、立派な牙がデックスアピールで、子供自体ができなくなっていく。
 残念ながら、象牙市場の全廃は必要としか言いようがない。




 以下、次点:
藤井一至『土 地球最後のナゾ:100億人を養う土壌を求めて』
小畑弘己『タネをまく縄文人:最新科学が覆す農耕の起源』
呉座勇一『陰謀の日本中世史』
秋山哲雄『都市鎌倉の中世史:吾妻鏡の舞台と主役たち』
本多隆成『徳川家康と武田氏:信玄・勝頼との十四年戦争』
光成準治『シリーズ【実像に迫る】18:九州の関ヶ原
永井晋『鎌倉源氏三代記:一門・重臣と源家将軍』