鳥羽徹『天才王子の赤字国家再生術:そうだ、売国しよう 10』

 ウェインがナトラを捨てるというか、自ら退場する準備を整えつつある感じだな。


 前回の事件で、勝手に他国の有力者の養子になったウェイン。家臣の反発を受けて、しばらくおとなしくしていることに。隣国デルーニオからの三国同盟の記念行事のお誘いにも、フラーニャを代理で出すことにする。
 しかし、三国同盟の一画、ソルジェストで皇太子によるクーデタ騒ぎが発生。さらに、東の帝国でも、劣勢な二皇子が八百長軍事衝突に注目を集め各地で争乱を引き起こしロウェルミナにダメージを与えようと画策する。東西両面での混乱に対し、ウェインはナトラ本国から事態を操ってみせる。


 メインはソルジェストの王女トルチェイラの陰謀。落ち目のデルーニオが、西方では異端とされる東レベティア教徒を引き込み、それによって国家の再建を図っていることに目を付けての作戦。国元を離れている最中にクーデタを誘発させ、デルーニオ軍を動かして兄王子を打倒。その後、レベティア教の福音局長と組み、デルーニオを裏切る。東レベティア教による侵略と言い立て、デルーニオを解体。最大の利益を得ようとする。
 しかし、そこにフラーニャの横槍が入る。人員を送り込み、捕らえられたソルジェスト王グリュエールを救出。さらに密かにマーデン軍を送り込み、指揮させて、王子の軍とデルーニオの軍、ともに潰走させる。
 一方、デルーニオについても、「東レベティア教の宣教師」をそう偽って国賊を炙り出すための工作員と言い抜けて、宰相マレインにすべて押し付けて、国家そのものへの被害を局限することに成功。
 妹姫フラーニャが、トルチェイラの陰謀をほぼ独力で破ってみせる。そして、フラーニャが補佐役に選んだシリジスは、母国の防衛とフラーニャの器量に心底から仕え、彼女をナトラの王にすることを提言する。


 一方、帝国側ではロウェルミナが西側の強国ファルカッソに密かに赴き、王子にして、選聖侯ミロスラフと直接交渉。食料の迂回輸出と東レベティア教徒の活動制限と引き換えに、対陣のふりをしているバルドロッシュとマンフレッドの軍勢を襲撃させる。
 ただでさえ落ち目の2人はさらに威信を低下させることになる。ロウェルミナはこの機に一気に皇位レースの決着をつけることを決意する。
 そういえば、ロウェルミナとウェインの悪友グレンとストラングが出てこなかったけど、袂を分かったのか、別の策で動いているのか。


 ウェインにとっては、シリジスが自分を排斥に動くことは予測の内だったわけか。そして、父王に「歴史に悪名を刻んで頂きたい」とか言い出すラスト。


 ナトラ王家と密接な関係を結ぶフラム人、ラーレイの一党が秘めていること。それは、一神教を発明し、フラム人の国を作り上げた「始祖」の直系を隠し、守ること。それが読者とレベティア教の幹部に開示される。
 ニニムが始祖直系であることがどういう意味を持つのか。そして、ウェインがニニムを解放してなにを行うのか。それは次巻のお楽しみということなのかね。