加藤祐三『軽石:海底火山からのメッセージ』

 福徳岡ノ場軽石の沖縄漂着騒動で気になったので、図書館から借りだし。
 沖縄に漂着する軽石を題材に、軽石から分かることを紹介する。1924年西表海底火山、1929年北海道駒ヶ岳噴火、前回にあたり1986年福徳岡ノ場噴火と軽石の沖縄漂着、1991年西表群発地震、遺跡の年代測定の手がかりとしての軽石、浮かない軽石「材木状軽石」などのトピックから、軽石から分かることを紹介する。
 これに、全体的な軽石の性質や研究ガイドが付される。軽石って、ガラス質なんだ。
 穴だらけの石からでも、情報は色々と絞り出せるんだな。


 1924年西表島近海の海底火山噴火、海面で爆発が見られるって相当な規模だよなあ。それなのに、報告は通りかかった定期船の一報だけ。噴火した火山も不明というのがすごい。群発地震があったり、八重山諸島って存外地質活動が激しい場所なんだな。
 噴火の一報で、津波警戒で混乱する島の人々、押し寄せた軽石。鍋こすりなどに軽石を集める人々がいっぱいだった。水上交通は今回と同じように大混乱。だいたいは、波浪によってだんだん小さくなっていったが、マングローブの中とかには大きな軽石がわりと残っているとか。長さ2メートル、幅1メートルクラスの軽石とか、すごいな。1トンの重量があっても、比重が軽いので水には浮く、か。
 その後、神戸海洋気象台の関和男が各地に問い合わせて、軽石の漂着地点などから、日本列島の海流の全体像を解き明かしているのが興味深い。


 北海道駒ヶ岳、なかなかの暴れっぷりだなあ。1640年の山体崩壊に、1929年のプリニー式噴火。噴火の最中、直後に登山を試みる人々がいるのが恐ろしい。良くやるなあ。ここでも漂着軽石から海流の研究が行われている。太平洋の沖合に流れる軽石と、東北に流れる軽石。メインは下北半島、と。日本海側には流れないんだ。


 第7章は、前回の噴火にあたる1986年の福徳岡ノ場噴火とその軽石の沖縄漂着。「チョコチップクッキーのよう」なという形容はここからか。捕獲岩が多いのは、それだけ、マグマの分化が進んで結晶が多かったってことなのかねえ。
 けっこう色にばらつきがあったが、それは気泡の量の違いで化学組成は同じというのが興味深い。気泡が多いとガラスの乱反射で白く、少ないと黒く見える。
 1986年の噴火は、島の大きさから見ても、今年のと比べると規模が小さいのかな。


 第8章は1991年の西表島群発地震について。軽石となんの関係があるのかと思ったら、群発地震の間に軽石の漂着があったという。しかし、成分を調べると既知の軽石と一緒で、沈降によって打ち上げられていた軽石が再浮遊した可能性が高い、という。
 群発地震の原因として、松代群発地震のような「水噴火」の可能性を疑ったが、それらしい地下水位の変動に関する情報は寄せられなかったという。水噴火というのが興味深い。そんなのもあるのか。


 第9章は、遺跡から検出される軽石層を年代特定に利用しようという話。沖縄では、九州の火山の風上に当たるので、カルデラ噴火のテフラを年代比定に使えず、その代替手段として軽石に注目。軽石に付着した生物遺体から炭素14法を使って年代測定。軽石は何度も浮遊漂着を繰り返した可能性があり、下限を定めるのは難しいが、上限は定められる、と。「BLスコリア」と分類された軽石ならば670年以後と想定できる
 この「BLスコリア」、成分や分布から福徳岡ノ場を含む硫黄島周辺で噴火した火山の噴出物だという。1300年経っても、かなり大きな軽石が見つかるなど膨大な量が噴出した可能性が高いとか。今年の軽石漂着と、どっちが量が多いのだろうか。


 最後は、海底火山の頂上部だけで見つかった「木材状軽石」。木材の化石そっくりの軽石。長いパイプ状の気泡に、水圧と温度で急速に割れ目が走って、急速に浸水。穴が良く繋がっていたので、あっという間に比重が海水を越えちゃった。となりの火口では普通の溶岩と言うのがおもしろいなあ。地上で見つかれば、海底噴火の証拠となるが、他では見つかってない。
 80年代だと、しんかい2000が現役の頃だったんだな。