川崎悠『貴方達には後悔させもさせません!:可愛げのない悪女と言われたので【記憶魔法】を行使します』

 進行が遅いと思ったら、辺境諜報バトル編は2巻なのか。最初にシャーロットの章を前後に分けたことで、分かりやすくなったかな。
 ウェブ版と見比べると、なかなか構成が変わっているかな。


 悪役令嬢として、学期末のパーティで王子に婚約破棄を突きつけられた主人公シャーロットは、特異魔法である「記憶魔法」を使って回りの人間を拒絶し、最終的に自分の存在とひきかえに、国中の人間や記録からシャーロットの存在を消す挙に出る。
 彼女を「悪役令嬢」と貶めることで団結していた連中は、むしろ中心を失ってしまう。
 「悪役令嬢」におんぶに抱っこだった連中が、冴えない人生に陥って行くのが愉快だな。仕事を押し付けまくって、学年主席とイキッていた王子がかろうじて及第王子に転落していく。悪女との比較対象で好感度が上がっていた「ヒロイン」も、評価の対象がいなくなれば冴えない妥協の人生に。そして、シャーロットに横恋慕していた護衛騎士も愛の対象を失う。裏でこそこそ嫉妬して貶めていた友人は、軸を失って無気力に。
 というか、側近が無能。


 で、ラストはシャーロットに戻って、記憶魔法で存在を消すまでに至った展開の種明かし。自身の記憶とひきかえに、何らかの願いをかなえる記憶魔法。それに怖じ気づいて、母親の病気治療に魔法を使えなかったのが、ずっと引っかかりになっていた。
 その後も、なんとなく不穏な気配、「壁」の存在を感じつつ、王妃になるものとして精進を重ねていく。しかし、義弟に言い寄られたり、妙な女に声をかけられたり、「ヒロイン」マリーアが出現して孤立していくなかで、苦しむ。
 そして、婚約破棄。ギリギリのところで何物かの企みではないかと気付いたシャーロットは、国を救い、「敵」の思惑を外す起死回生の一手、記憶魔法で自身の存在ごと消去する。


 母親の記憶以外失ったシャーロットは、辺境でエバンス子爵家のメイドとして生きていくことになる。語彙もほとんど失っていたけど、再学習は急速に進んで。気の置けない友達もできて、めちゃくちゃ幸せそうなシャーロットさん。
 しかし、周りの見る目は、どこぞのお嬢様という。


 隣国の皇子と「鏡の魔女」に関する本格的展開は次巻、と。


 記憶魔法というのが、なかなかおもしろい。自分の記憶と引き換えだから、扱いにくい。というより、本義は「忘れること」か。それに付随して、何らかの現象が起きる。