「縄文人、意外と長生き:腰骨再調査したら65歳以上が3割:聖マリアンナ医科大の長岡さん発表」『朝日新聞』10/11/13

縄文人、意外と長生き 65歳以上が3割 聖マリアンナ医科大
 個人骨の年齢推定を、保存状態が悪い恥骨結合面ではなく腸骨耳状面を利用したこと。集計に「ベイズ推定」という手法を導入したことが特色らしい。まあ、違和感のない結論だと思う。これから検証していく必要はあるのだろうが。つーか、縄文人の平均寿命30歳ってのは、乳児死亡率が高いからだと思っていたけど、もしかして本当に30代程度で死んでいたという議論だったのか。普通にばらつきが出るのは、予想できるだろうに。

 平均寿命が30歳前後とされ、「過酷な生活環境のため、早死にする人が多かった」と考えられてきた縄文時代の人たち。しかし、出土人骨の年齢推定に関する最新の研究で、実は65歳以上とみられる個体が全体の3割以上を占める――という結論がこのほど提示された。なぜ、これほど違う結果が出たのだろうか。(宮代栄一)


従来の30歳説見直す
 この研究を行ったのは聖マリアンナ医科大講師の長岡朋人さん(人類学・古人口学)。文部科学省の科学研究費の成果として、このほど「月刊考古学ジャーナル」の臨時増刊号で発表した。
 年齢にまつわるデータがまったくない人骨について、人類学者たちは、歯の生え具合や、すり減り具合、手足の軟骨の癒合の程度(くっつき具合)などを基準に年齢推定をしている。中でも、成人以上の判定でよく使われるのが「恥骨結合面」と呼ばれる部分だ。腰骨の一部で、年齢が若いと表面の凹凸が激しく、年をとるにつれ滑らかになる特徴がある。
 「ただし、恥骨は残りにくい。このため今回は、比較的残りやすく細かな年齢推定が可能な、同じ腰骨の腸骨耳状面という部分を検討対象にしました」。この部分は若い時は滑らかだが、年をとると、骨棘ができたり穴があいたりすることが指摘されている。
 「ベイズ推定」と呼ばれる、新たな統計的手法も採用した。これまでは、たとえば20代の可能性が高い人骨の年齢を表す場合、他の年齢の可能性が残っていてもそれらを切り捨て、単に「20代」と表現してきた。
 「でも、20代の可能性が7割だったとしても、あとの3割は30代や40代の可能性が残されている。それらの誤差が蓄積され続けると、集団全体で考えた際、事実と異なる結果が出る可能性が高い」
 長岡さんがこう考えたのは、古人骨に基づく研究では、いずれの人類集団も30-40代で構成員の大半が死んでしまうことが指摘されているのに、古文書などの記録に残っている範囲では、このような傾向を示す集団はほとんど存在しないからだ。
 「縄文人と近い暮らしをしていたと考えられるアフリカの狩猟採集民でも、乳幼児死亡率が高かった江戸時代の人々でも、50代以上でなくなった人が3割を超す。とすれば、今までの縄文人の年齢構成には疑問符がつく」
 長岡さんが新しい方法で再調査した岩手・蝦島貝塚や千葉・祇園貝塚など9遺跡から出土した計86体の人骨は、65歳以上が32.5%を占めたという。
 「縄文人=早死に」のイメージのもとになった人類学者小林和正さんの1967年の論文では、65歳以上はゼロだったから大きく異なる。「今までの年齢推定法は老年の人を実際より若く推定してきたのではないか」
 琉球大教授の石田肇さん(形質人類学)は「長岡君の精密な調査で、どんな集団でも長命な個体が存在することが分かってきた。確率的にみても、縄文時代における65歳以上の個体が3割という割合は間違いない」と評価する。


考古学者から肯定論
 考古学者も肯定的だ。「縄文時代は伝統的、かつ複雑な社会構造を持った社会だったことが明らかになりつつある。30代で大半の人が亡くなるのでは、技術継承などの面で支障があったはず。寿命が長かったなら、そうした問題はなくなる」と、明治大教授の阿部芳郎さん(考古学)。
 国学院大名誉教授(考古学)の小林達雄さんも「若い人には創造性があるが、それらを体系づけ、安定した状態を維持していくためには、30代以下だけでは無理。50代以上の構成員も多かっだのなら納得できる」と話す。
 一方で、やや慎重な意見も。国立長寿医療センター研究所所長の鈴木隆雄さん(老年学・古病理学)は「興味深い説だが、完全に結論が出たわけではない。今回の腸骨耳状面を使うやり方が、従来、年齢推定の判断基準となってきた恥骨結合面などの変化と整合性があるかどうか。今後、年齢推定のやり方を総合的に検証する必要があるのではないか」と話している。