長沼毅・藤崎慎吾『辺境生物探訪記:生命の本質を求めて』

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)

 微生物学者の長沼氏とSF作家の藤崎氏の対談本。極限環境に関連する日本国内の各地を訪れて、それに関連したテーマで話している。新書としては、破格の厚さだな。第一章は国立極地研究所の低温室とそこから極地の微生物たち、第二章が新江ノ島水族館の深海コーナー、第三章が大分県由布市の伽藍岳火口、第四章に鳥取砂丘と砂漠、第五章で瑞浪超深地層研究所と地中の生命圏、第六章で高エネルギー加速器研究所と宇宙や放射線と生命、最後にエピローグで水沢VLBI観測所でまとめというか地球外の生命の姿を議論している。
 なんか微生物すごいな。多細胞生物よりよっぽど多様性が高いというのが、なんというか、意表を突かれる。
 南極は乾燥し、かつ塩分が多い環境であるとか、どんな塩分環境でも生き残れるハロモナスの話など。独立栄養も従属栄養も、どんな塩分環境もバッチコイとか、ハロモナスすごすぎる。
 深海のチムニーの話。全体的には酸素や光が少なくて、生物が少ないけど、一部にはパッチ状に生物の群集があるとか、熱水噴出孔のうえに下りて船体が焦げたとか、ズワイガニに襲われたエピソードとか。チューブワームが共生菌をどうやって取り込んでいるかとか、富山湾のオオグチボヤの研究の話。
 第三章は高温環境における生物の話。現状のところ、生物は120度前後までしか生きられないと。で、個々の生物の生息可能領域は30度前後の幅を持っているそうな。たんぱく質が変質してしまうので、それ以上は無理らしい。一方で、普通に現在の温度は寒すぎるらしいが、そのあたりの話はあまり展開せず。
 続いては砂漠環境。乾燥とイオン強度の変化に強い微生物。ゴビ砂漠から飛んでくる黄砂に引っ付いて飛んでくる微生物の話。ゴビ砂漠のものと遺伝子を比較すると、完全一致とか。砂漠に住んでいる微生物が深海でも見つかるとか。
 第五章は地中。地中の生命圏の生物量の膨大さ。そして、一方で、地中の生物は、生命活動が非常にゆっくりしていること。で、このゆっくり変動する生物を、科学でどう分析していくかという課題。地中の生命分布は不均質で複雑だが、微生物研究に使えるレベルのボーリングはコストがかかるのでそういくつもはできない。結果、ごく少ないサンプルからの議論になっていて、分布や変動が追いきれていないという課題があるという。微生物と地下水の相互作用がウランなどの鉱床を形成している状況や地震と地下水と微生物の相互作用の話など。断層地震の発生と微生物の地下水との相互作用あたりは、ありえるのかね。プレート境界地震だと、あまり関係なさそうな気がするけど。
 第六章は宇宙の話。宇宙が生命に厳しいのは、宇宙線による放射線障害が酷いからなのだそうだ。地球の磁気圏から外に出ると、手加減なく宇宙線が降り注ぐ。放射線が生命にダメージを与えるのは、直接粒子が衝突するのではなく、通過した軌跡上の分子を非常に活性化したイオンに変え、それが悪さをするためなのだそうな。で、そのような分子を減らすべく、細胞内の水分を減らすと、放射線に対する耐性が上がるという。強力な放射線を当てても生き残るとか、DNAを修復できてしまうとか、世の中ものすごい細菌がいるものだ。
 で、エピローグも宇宙。他の惑星で生命が存在できる可能性の話や、生命が宇宙の物質的な秩序を破壊する方向に動いているという話や、一番進化した生命が珪素を利用している珪藻なんじゃねとか。
 おもしろいけど、分かったような分からないような話だった。ここから、別の著書を読んでみたいところだな。


 以下、メモ:

長沼 足でかどうかわかんないけれど、ハマグリだって泥の中をずっと立って歩くでしょ。シロウリガイもすごいよ。海底に行ったら、シロウリガイの歩いた痕というか、模様がドワーッといっぱいある。p.132

 深海生物も意外と行動的。