佐々木恵介『受領と地方社会』山川出版社 2004

受領と地方社会 (日本史リブレット)

受領と地方社会 (日本史リブレット)



コンパクトにまとめられていて、参考文献もついているので、便利そうな書物。
この手の本を読んでいていつも思うのだが、「律令制」なる制度がどこまで実際に機能していたのだろうか。特に地方の統治、班田収受の制度の実行がどの程度行われたのか疑問に感じる。畿内の諸国ならともかく、九州などでは体裁だけだけでも整えられたのであろうか。
本書でも「郡司の伝統的支配力」という言葉がよく使われる。「律令制」の影に隠れているが、地域社会は別の形で動いていたのだろう。それが熊本平野ではどんなものだったのかが知りたい。
また、国家が把握した耕地、課税対象になる耕地は、地域の定住・生産活動のなかでどのような位置を占めたのだろうか(班田制にしろ、負名体制にしろ)。本書34ページの伊賀国の例では、「水田」に稲だけでなく、油や絹も賦課されている。『雑穀:畑作農耕論の地平』(ISBN:4250203166)のようにそのあたりの研究は進んでいるわけだが、どうも分かりにくい。上の例でも、二毛作か別の畑で油性作物が栽培され、桑畑があり、誰かが絹を織っていたわけだが、その生産が全生産活動のどの程度の量を占め、どのように編成されていたのだろうか。