高田公理他編『嗜好品の文化人類学』読了

嗜好品の文化人類学 (講談社選書メチエ)

嗜好品の文化人類学 (講談社選書メチエ)


国立民族学博物館の研究者を中心に関西の文化人類学者が、世界各地の嗜好品についてまとめた本。各著者は、嗜好品について専門に研究しているわけではないので、人によってスタンスというか、書き方がまちまち。また、突っ込み不足の感もある。
しかし、世界各地の嗜好品を一堂に集めてあるので、地域ごとのバラエティが豊かで面白い。特に、ビンロウ・カートといった、噛むタイプの嗜好品に一章以上割いてあるのがいい。


読んでいて特に面白かったのが、澤田昌人「コンゴ民主共和国ピグミーの嗜好品:ハチミツをむさぼり、ゾウの脂を味わう」。
狩猟採集生活を営む、つまりは物質生活がシンプルな、ピグミーにとっては、象の脂肪・蜂蜜・塩が、非常に強力な嗜好品であることは、原初の人類が何に快感を覚えたのかを示していて興味深い。
今や、甘味・塩分・脂肪は、普通に摂取できるので気付いていないが、その常習性は麻薬の比ではないのかもしれない。
脂肪分が、旨さを感じさせる要素だとは、聞いたことがある。


あえて苦言を呈するとすれば、歴史的変遷を軽視しているために、ピントがぼやけてしまっているということだろう。

  • 地域の風土と密接に関係する嗜好品・趣味。
  • 地域を越えて流通・受容された嗜好品(前近代の異文化間交易の時代から流通していた胡椒・丁子などの香辛料、砂糖など)。
  • 「近代世界システム」によって16世紀以降、新たに世界的商品となった嗜好品(茶・コーヒー・タバコ・コーヒーなど)。
  • 19世紀以降の工業化と植民地化、さらに20世紀後半のグローバル経済化による変化。

最低でも、この位の層に分けて分析しないと、ごっちゃになってしまうのではないか。
ある地域の嗜好品の文化を考える上でも、古くから社会・文化の中に根付いてきた嗜好品とその背後にある文化的・社会的意義、ここ何十年ほどの社会の変化のなかで外部から大量に送り込まれてくる商品がそれまでの嗜好品の体系を変化させたのか、そのあたりは最低でも注意しないといけないのではないだろうか。
私自身が奢侈品貿易・異文化間交易に興味があり、その重要な構成要素が嗜好品であるだけに、もう少し興味深い分析ができていればと残念に思う。