熊本県立美術館「細川・美術館コレクション Ⅰ」展

 館蔵品を紹介するコレクション展。今回は仏教美術が多めな感じ。しかし、仏像類は寄託品で撮影できず。
 いつものように、第二展示室の第一室は細川家、永青文庫関係の武具調度類、絵画など。第二室は熊本県ゆかりの美術品や熊本で伝承されてきた美術品。第三室は近代洋画でフランスを中心とする近代絵画と熊本県関連の洋画家の作品を展示。

細川家の武具と大名道具

 第一室の半分程度を占める。永青文庫永青文庫から熊本県立美術館に寄託されたもの、県立美術館が所蔵するものに大別できる。武具・馬具類、細川家の夫人の嫁入り道具、夫人の小袖が展示。嫁入り道具は12代斉護夫人の益姫と14代護久夫人宏子所用のものがよく展示されるけど、それ以前の物は残っていないのかな。家紋などを消して、娘の嫁入り道具に転用するというのがあったそうだけど、そういうことなのだろうか。現存の嫁入り道具も製作年代を調べたら、なかなかおもしろい結果が出そうだけど。


 武具は、鎧が二領に、陣太鼓、鞍と鐙、障泥が出品。
 龍打出浅葱糸威南蛮胴具足。ヨーロッパスタイルの鎧を模倣した鎧。胴と兜に打ち出された龍がすごい。元の鎧は、歩兵用か胸甲騎兵あたりの鎧なのかなあ。全身鎧っぽくはないな。





 黒革包啄木射向紅威丸胴具足。三斎流具足って、全体に簡素で軽量な具足だけど、頭の羽が目立ちまくってるなあ。




 馬具類はそれなりに使われていたのかな。青海波海松文鞍・鐙は、お尻が当たるところの漆が剥がれていた。流水鯉図障泥は皺皮に黒漆を塗って、水中部分は金箔貼りというなかなか豪華な品。使用頻度が高かったのか、足が当たるのか、漆や金箔がかなり剥がれていた。


 道具類は、12代細川斉護夫人益姫の嫁入り道具の黒漆塗唐草蒔絵櫛台と14代細川護久夫人宏子の嫁入り道具の杏葉紋唐草蒔絵挟箱とそのカバー緋羅紗杏葉紋油単。益姫の物には実家広島浅野家の、宏子の物には佐賀鍋島家の紋が入れられている。というか、護久・宏子の婚姻は明治元年なのか。
 櫛台には、各種の化粧道具がセットで付属。化粧の筆の先端が少し染まっていたから、嫁入りの際かなにかに、使われていはいるのかな。挟箱、運ぶ時にはカバーを付けるというのも興味深い。両者とも、写真不可。


 最後は小袖。これもハレの着物か、刺繍がすごく豪華なもの。昨年も出ていたような。




細川家ゆかりの近世絵画

 第一室残り半分は近世絵画。大型の作品が三点。「領内名勝図巻」から「芦北郡田浦佐湯浦手永之内」、「源氏物語扇面貼交屏風」、「松に虎・竹に虎図屏風」の3点。
 「領内名勝図巻」は、田浦の内陸、真東にある牧山が印象的。細川藩の牧として使われていた場所で、ここだけ緑鮮やかな草原に、走る馬たちが印象的。地形図で見るに、確かに緩やかそうな山だけど、あんまり牧場には向いてなさそうな地形にも見えるが。
 「源氏物語扇面貼交屏風」、室町時代にさかのぼる扇面屏風は貴重だそうだが、源氏物語の知識がないと、正直、まったく分からないな…
 最後は、「松に虎・竹に虎図屏風」。大判で、見栄えのする作品。細川忠興が下絵を描き、矢野三郎兵衛が彩色を施したと伝わるそうな。松はともかく、虎さんはいまいち迫力ないなあ…





近代日本画と熊本の美術

 第二室は熊本ゆかりの美術工芸品と細川護立コレクションの近代日本画。2/3程度が熊本ゆかりの美術工芸品で、今回は仏教美術が多め。大半が寺社の所蔵で県立美術館には寄託されたものなので、撮影不可。福田太華の作品三点が目を引く。
 西巌殿寺の山上本堂の本尊であった十一面観音立像、池辺寺ゆかりの「池辺寺縁起絵巻」、高麗仏画楊柳観音図」、那智熊野座神社所蔵の十一面観音坐像懸仏、大慈寺所蔵の福田太華「施無畏尊者図」、県立美術館蔵の福田太華「魚藍観音図」「白衣観音図」が展示。平安時代にさかのぼる十一面観音立像と十一面観音坐像懸仏が印象深い。十一面観音を本地仏とする神が複数存在したってことなのかな。あとは、福田太華「施無畏尊者図」、大きな画面に太い描線で描かれた仏の姿が迫力がある。写真不可が残念。
 福田太華「魚藍観音図」。法華経の教えを広めるために、魚商の美人と変じた姿を描く。一見、美人画



 福田太華「白衣観音図」。「施無畏尊者図」と似たようなテイストの作品。白衣を頭からかぶって、岩の上で静かに座る姿だそうな。



 近世絵画は、熊本で継承されてきた伊藤若冲作品二点と矢野良勝「全国名勝図巻」。伊藤若冲の「鶏図」と「墨菊図」。後者が好きだけど、撮影不可。墨を染みこませて、ぼかす技法が良い。


 伊藤若冲「鶏図」。



 矢野良勝「全国名勝図巻」。西行松と華厳の滝をパシャッと。1799年に東北地方に行って描いたスケッチをもとに制作された、名所図集。華厳の滝の迫力や西行松の微妙に観光地化された雰囲気などが。




 日本刀は、同田貫が二振り。
 「銘九州肥後同田貫藤原正國」。赤羽刀。16世紀。



 「銘肥後同田貫宗廣作」。こちらは1846年だからかなり新しい時代のもの。


細川護立コレクションの近代日本画

 3点出品。比較的新しい時代だけに、著作権が残ってる作品が多そう。あとは、寄託関係もあるのだろう。どれも撮影禁止。
 菱田春草六歌仙」、堅山南風「霜月頃」、小林古径「鶏と七面鳥」。
 堅山南風の作品、全体としてはあんまり好みじゃないんだけど、この作品は好きだなあ。

西洋絵画

 第三室は、19世紀以降のフランスを中心とした絵画と熊本に関わる洋画家の作品。これも、定番のパターン。
 2/3ほどがヨーロッパ絵画。まあ、だいたいいつも出てくるメンツかな。
 ウィリアム・アドルフ・ブーグロー「キューピッド」は初めて見たかな。一目で古典主義な作品。きれいだけど、外野から見ると、やはり面白みが微妙に欠けるというか、題材に魅力が無いというか。
 バルビゾン派の作品であるアレクサンドル・ドゥフォー「鹿狩り」が安定して良いなあ。安心感がある。

近代洋画

 熊本関係の近代洋画は6点。
 海老原喜之助「芸」、坂本善三「春」、野田英夫「バス内」「夏の省線ホーム」、牛島憲之「秋川」「まるいタンク」。
 牛島憲之の戦前と戦後の2作品の対照がおもしろい。戦前の1934年に描かれた「秋川」が印象派的な光を強調した作品なのに対し、1957年の「まるいタンク」はキュビズムちっくと作風をがらりと変えている。個人的には前者が好き。


 野田英夫「バス内」「夏の省線ホーム」。